FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

吉本ばなな『バリ夢日記』|読書旅vol.58

前回ご紹介した『マリカのソファー』の続き。今回は著者である吉本ばななさんが、『マリカのソファー』の取材のためにバリを訪れた際のエッセイ『バリ夢日記』(1994年)です。

 

小説との読み比べ

どうやら私は紀行小説の裏話を読むのが好きらしいです。例えば、吉本ばななさんだったら『なんくるない』の取材日記的な『なんくるなく、ない』がそうですし(※詳しくはこちらから)、沢木耕太郎さんだったら『深夜特急』の誕生秘話が窺える『旅する力―深夜特急ノート―』もそう。

少しニュアンスは異なるものの、船戸与一さんの2006年作『河畔に標なく』のミャンマー取材に同行した高野秀行さんが、まったく別の角度から道中の出来事をまとめた『ミャンマーの柳生一族』だって、それらと似た感覚でも楽しめます(※詳しくはこちらから)。

作家さんからすると、小説のタネを明かすのは、自分の裸を見せるようで恥ずかしい行為なのかもしれません。

だけど、小説本編と見比べて〈こういう旅からこういう物語が生まれたのか!〉とか、〈1つの旅からここまで膨らませてしまう作家さんの想像力って凄いな!〉とか、〈これってほぼ内容そのままじゃん!〉とか、いろいろ発見したり、勝手に想像したり、一緒に体験した気分に浸ったりしてニヤニヤしています(気持ち悪い)。

 

人気作家の大名旅行?

そんなこんなで、『バリ夢日記』について。1993年4月、ばななさんにとって人生初のバリ旅は、小説の企画をしたマウンテンなる会社の社員数名(具体的に何の会社なのかは不明)、幻冬舎の担当編集者、表紙や挿絵を手掛けたシンガー・ソングライターイラストレーターの原マスミさん、ばななさんの女性秘書という、けっこうな大所帯で敢行されました(+現地ガイドも帯同)。

バブルが崩壊した年とはいえ、まだまだ出版業界が華やかなりし時代。何だか大名旅行みたいでカッコイイです。業界全体の羽振りの良さが垣間見えます。

言わずもがな、『キッチン』や『TUGUMI』を立て続けにヒットさせてから5年足らずの超売れっ子作家による取材旅、っていう大前提があってこそだとは理解しながらも、ここ1年ほどバックパッカー系のエッセイをたくさん読み返していたせいか、お付きの人の多さに改めて〈おおっ!〉となりました。夢があります。

バリ滞在期間は8日間。旅程は小説とほぼ同じ流れで、サヌールからウブド、間で物語には登場しないチャンディダサを挿み、トゥガナンに寄って、最後はクタへ。

ケチャやレゴン・ダンス鑑賞にパラセーリング、アトリエ見学、バリ・マッサージ体験、ショッピング……と、とにかくバリを遊び尽くします。

食事場所のチョイスは、ローカル向けのワルンから外国人向けのレストランまで、何でもござれ。夜になればみんなで酒を酌み交わし、遅く起きた朝はルームサービスを頼んで贅沢なブランチ。羨ましい限りです。

ついでに、ビーチでブレイズヘアにしてもらったり、マニキュアを塗ってもらったり、バストアップ効果を謳ったジャウム(バリのオーガニック・コスメ)を試して秘書と一喜一憂したりもするばななさん。てか、楽しみすぎでしょ。

 

この旅からあんな物語が!

解離性同一症の少女を主人公に据えた『マリカのソファー』は、全体的に重たい空気が貼りついていました(決して嫌な重さではなく、その重さが私には凄く心地良いです)。

片や、ひたすら飲んで食べて遊んでいる『バリ夢日記』に重さや暗さは皆無。ベタな観光プランを全力で和気藹々とこなしていきます。

もちろん、夜の散歩中に停電となり、辺り一帯が闇に包まれるエピソードや、ビーチから臨む夕日の美しさ、格式高いアマンダリ・ホテルの素晴らしいインテリアについての解説など、小説とリンクする部分もたくさんありつつ、私が興味を引かれたのは、『マリカのソファー』と『バリ夢日記』とで、まるで異なる空気感

この2つが同じ旅から生まれた文章とは思えません。つくづく小説家ってとんでもないな~と、自分でも呆れるくらい安直な感想がボロッと出てきました。

ちなみに、〈ベタな観光プラン〉をどうこう言いたいわけじゃありませんよ。むしろ逆。ベタ万歳です。

〈ワルン・コピ〉の名で文中に登場するクタのレストランは、内装の説明からして、おそらく現在も営業を続けるKopi Pot。他にもウブドのギャラリーや、あれやこれや、いまなお残っているスポットが多く、コロナ明けにバリへ行こうと思っている方には、そこそこ実用的に使えるんじゃないかと思います。

流石は企画会社がしっかり練っただけあって、ばななさん御一行が巡った観光プランは、短時間でバリを存分に満喫できるもの。参考にしない手はないです。

 

両想いと片思い

それともう1つ、『マリカのソファー』と『バリ夢日記』の温度感の違いと併せて驚いたのが、たった8日間のバリ初滞在で、島民の宗教観伝統文化の核心に、ばななさんがガッツリ迫っている点。

短い滞在の旅人にあんなにもすべてをさらけだしてくれたバリよ。私は移動するたびにいろいろな生命体を感じ、自分の中に息づく自然の気配を確かに感じた。日に日に感覚はとぎすまされた。自分がどんどん自然と親和してゆくのがわかった。

嗚呼、いつか私もこんなフレーズが言えるようになりたい。何度通っても、その一端をやっと掴めたか、掴めないか……という状態の私は、恐れ多くも大先生相手にちょっぴり嫉妬してしまいました。

吉本ばななさんの作品にはよく予知夢が描かれていますが、この旅の間にも前夜に見た夢が現実化するのをはじめ、リアリティーのない悪夢にうなされたかと思えば、後にそれが聖獣バロンと魔女ランダの戦いそのままの世界観だったことが判明するなど(夢を見た段階ではご本人の予備知識ゼロ)、不思議な夢の話がいくつか登場します。

タイトルの『夢日記』とは、夢のような旅の日記っていう意味のみならず、文字通り眠っている間に見た夢の記録でもありそうです。著者が旅行中にたびたび変な夢を見てしまったのは、やはり神々の宿る島バリのせいなのでしょうか。

もし私がばななさんと同じ旅のスケジュールを組もうものなら、夜にはヘトヘトに疲れて爆睡しているはず。この感受性の乏しさよ……。

〈自分がどんどんバリの自然と親和してゆく〉のを実感できる日が、私には来るのかな。このまま永遠の片思いで終わる予感しかしません。まあ、相手が大好きなバリだから、別にそれでもいいですけどね。

……と話の方向がズレはじめたところで、今回はお開き。『マリカのソファー/バリ夢日記 世界の旅①』(幻冬舎)として1冊にまとめられている小説とエッセイを、わざわざ2回に分けて取り上げる意味があったのかはわかりません。

でも、これを書いていくうちに、私のバリに対する見返りを求めないピュアな愛が再確認できたので、いまは謎に満ち足りた気でおります(完全に自己満足)。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

www.gentosha.co.jp

 

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