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辻真先・編『旅行エッセイ集 地球あっちこっち―25人の旅人たち』|読書旅vol.77

先日、ブックオフでユニークな企画のオムニバス本を見つけました。それが今回ご紹介する『旅行エッセイ集 地球あっちこっち―25人の旅人たち』(知恵の森文庫/2000年)です。

 

教養講座から生まれたオムニバス本

本書は朝日カルチャーセンターの人気講座『辻教室 旅のエッセイ』から生まれた一冊。講師を務めるのは、『鉄腕アトム』『オバケのQ太郎』にはじまり、『Dr.スランプ アラレちゃん』『うる星やつら』『名探偵コナン』他数々の超モンスター・ヒット作品に関与してきたアニメ脚本家であり、『迷犬ルパン』シリーズでも知られる推理小説辻真先さんです。

生徒さんの年齢層は20代から70代まで。現役編集者や専業主婦、公務員に年金生活者など各々のバックグラウンドもさまざまなら、受講の動機も〈ビジネススキルをアップさせたい〉とか、〈旅の思い出を文章で残しておきたい〉とか、〈子どもの頃から辻さんのファンだった〉とか、本当にさまざま。

十人十色な生徒さんたちの書く文章から刺激を受けた辻さんは、講座が開始して約5年後、〈自分ひとりで読むなんてもったいない〉と、この本を編むに至ります。

そのときどきの習作を相手にして、いささか発作的、場当たり的にあーだこーだと論評するのも、老いぼれた物書きの完成を鼓舞してくれるが、こうしてみんなの作品を集大成する機会を得て、えらためて新鮮な感嘆を抱いた。

これらの文には、読む者をひきつけるなにかがある。旅によって活性化された作者たちの軌跡が、日常にどっぷりつかった者の目を洗う。

 

文は人なり

25人の旅人による25編の旅の記録が、四季ごとに掲載されていく本作。1編はすべて10ページ前後、サクサクといろいろな旅を追体験できる点が楽しいです。

オール車中泊で北海道を巡った話、エコノミーからビジネスクラスアップグレードにされて歓喜した話、緊急着陸にヒヤヒヤした話、マッターホルンで朝陽を望んだ話、川越までふらっと日帰り旅行に出掛けた話――。

例えば、同年代の仲間とパリにスケッチ旅へ出掛けた70代男性の書く文章は、緻密な風景描写が印象的でした。

はたまた、「諦めるか、それとも一歩踏み出すか! 時間は限られていた」との文章で始まるこんぴら参りのエピソードは、たった2時間、上司の目を盗んで寄り道するだけの話なのに、さも重大任務を背負わされたスパイさながらの緊張感を生んでいるのが凄いです。

同じレッスンを受講しているとは思えないほど、文体はバラバラ。時間の切り取り方も、旅の捉え方も、見事なほどバラバラです。

文は人なりという。旅が人生の一断片なら、旅に仮託した文章は作者そのものといっていい。自分史の典型として旅を書く人が多い所以だが、ここに集まった文章軍は跼蹐した自分を超えて、溌剌と旅の楽しみを――人生の楽しみを歌い上げている。

本書の最後には、著者の自己紹介と、各人に対する辻さんのちょっとしたコメントが収録されています(先生からの一言は生徒さんにとっては最高のプレゼントになったはず)。

自己紹介のフォーマットも自由で、年表形式で几帳面に書く方もいれば、謎の決意表明をする人もいて、ここにも書き手の個性がくっきりと浮かび上がり、本編と読み比べながら、作者の人となりを想像するのも一興。やはり〈文は人なり〉です。

 

人に見せる文章

ある程度まで本書を読み進めたところで、辻さんは普段の授業でどんなテクニックを生徒さんに伝え、どんな基準で25編を選んだのか、私なりに考えてみました。

1つ1つの作品に書き手独自の工夫が感じられる点から、使い古された表現ではなく、自分の言葉で書こうみたいな、そういう部分なのかな……とか。

何より、おそらく辻さんは起承転結、とりわけインパクトにけっこう重点を置かれている気がしています。どの作品にも、最初の文章で何が何でも読者の興味を引いてやろう的な気概がありありと。冒頭って大事ですね。

それでいくと、私の書き出しなんぞは0点ですよ。何の捻りもありません。どんなにアクセス数がショボくても、オンライン上で文章を発表している以上、しっかりと画面の向こう側にいる人を意識しなきゃダメだよなと襟を正した次第です。

このブログでも〈この人はめちゃくちゃ文章上手いです〉といった感想をついつい安易に書いてしまいがちですが、ぶっちゃけ、最低限の日本語ルールさえ守られていれば、文章は上手か下手かの技術点で計るものじゃなく、好きか嫌いかの世界だとずっと思ってきました。

どんなに文が整っていても私にはまったく刺さらない有名作家さんもたくさんいますし、逆に一般のブロガーさんが書いたルール無視の型破りなテキストに、なぜだか妙に惹かれることだってよくありますしね。

だけど、『旅行エッセイ集 地球あっちこっち―25人の旅人たち』を通じて、〈いやいや、案外テクニックも大事なのでは?〉と考えを改めている最中です(そりゃそうか)。

とにもかくにも、日常的に文章を書かれている方にとって、学び発見が多そうな作品。辻さんの授業内容をまとめた『地球あっちこっち―旅の文章教室』なるハウトゥー本も出ているらしいので、この機会に私も作文の勉強をしてみようかしら。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

 

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