直近2回の投稿に続いて、またまた食にフォーカスした紀行エッセイを。前々回の『世界ぐるっとほろ酔い紀行』(※詳しくはこちら)と前回の『港町食堂』(※詳しくはこちら)は、読んでいるそばから垂涎モノの飯テロ作品でしたが、さて、今回の『海外ブラックグルメ』(2014年/彩図社)はいかに?
勇敢な旅人vs.ブラックグルメ
本書は海の向こうで出会ったブラックグルメにまつわるエピソード集。ブラックグルメの定義は以下の通りです。
- 日本ではまず食べることがないゲテモノ料理
- 観ているだけで体に変調をきたすような不衛生な食事
- 一般の旅行者ならば絶対に口にしないだろう、得体の知れないローカル料理
執筆者は、嵐よういちさん、神崎純也さん、平間康人さん、丸山ゴンザレスさん、八雲星次さん、和田虫象さん、そして彩図社の書籍編集者でありアウトロー作家としても名を馳せる草下シンヤさんの計7名。
草下さんはもとより、他の皆さんも彩図社と縁の深い好奇心旺盛な旅人たちです。ご参考までに当ブログで過去に紹介している関連作のリンクを貼っておきました。
- 嵐よういちさん:2005年作『海外ブラックロード 危険度倍増版』、2011年作『海外ブラックマップ(文庫版)』、2018年作『おそロシアに行ってきた』
- 平間康人さん:2003年作『アジア「裏」旅行』
- 丸山ゴンザレスさん:2005年作『アジア罰当たり旅行』
この他にも、神崎さんの2007年作『闇の貿易商』や2009年作『裏社会の密売人』(※神崎さんは世界を股に掛けて暗躍した元ブローカー)、八雲さんの2010年作『海外クレイジー紀行』や2014年作『フィリピン 裏の歩き方』、和田さんの2008年作『俺の旅―518日ニッポン縦断強制放浪』など、旅or海外をテーマにした各人の著書は追って取り上げる予定です。
各地のゲテモノ料理をどう捉える?
舞台となるのはアジア・アフリカ・中南米。インパラのシチュー(スワジランド)、シマウマの馬刺し(ケニア)、ピラニアのスープ(ブラジル)、ナマケモノのステーキ(ペルー)といった、いわゆるゲテモノ料理中心のアフリカ編と中南米編は、自分的には全然アリでした。
念のため補足しておくと、私の場合は〈あんなに可愛い動物を食べるなんて……〉的な気持ちをできる限り排除するようにしています。
だって、わざわざ好んで食べたいかは別にしろ、日本の鯨食文化を外国人からとやかく言われるのって腹立ちませんか?
シマウマは自然のままにしておくと、数が増えすぎてしまうのだという。数が増えすぎると餌不足になり、大量のシマウマが餓死することになる。そうならないよう定められた狩猟期間に、決められた数だけ人間が殺すのだそうだ。
シマウマを食す習慣は動物愛護協会の方々もおそらく満場一致で納得の理由があるものの、そうでない他の変わり種食材についても、地元では日常的に食べられているらしく、ならばローカル文化を尊重したいところ。
ついでに、本書に出てくる変わり種食材の情報は総じて地産地消のお手本みたいな印象を受けました。食糧自給率の低い日本からしたら羨ましい話でもあります。
度を越した不衛生な食事
しかし問題はアジア編ですよ。インドの糸を引く駅弁だの(ゴンザレスさん談)、タイのサメット島で出された腐臭のする二枚貝の蒸し物だの(八雲さん談)。
しかも、よせばいいのに、ライター陣は疑問に思いながらもその品々を口に運び、一様に激しい下痢を経験。
いや、臭いや見た目でヤバイと感じたら、普通は食べないでしょうに……。この飽くなきチャレンジ精神はどこからくるのやら。
ちなみに、私もサメット島で注文したエビ料理からトゥーマッチな生臭さをキャッチした経験があります。
その時はお店の人に申し訳なく思いつつ、一切口にしませんでした。食べてOKか否か、人間としての直感をもっと信じたほうがいいですって。
極めつけは、ミャンマー第2の都市マンダレーから山岳地帯へドライブに出掛けた際の回想録。連日の脂っこいミャンマー料理で胃もたれしていた草下さんは、人里離れた村の子どもたちが食べていた生のキャベツに惹かれ、少しお裾分けしてもらうことに。
生キャベツの時点でドライブに同行していたマンダレーっ子から忠告を受けていたにもかかわらず、子どもたちに勧められるがまま、発酵した黒い豆のペーストまでパクリ。何でもこれ、地元の人でも食べる人は少ないシロモノだそうで……。
その結果、著者は数日後に赤痢を発症したのでした。怖すぎます。〈赤痢は適切な治療が行われなかった場合、30%以上の患者が死亡する〉ってネットに書いてありますよ、草下さん!
これは幸福な発見である……のか?
新しい御馳走の発見は人類の幸福にとって天体の発見以上のものである――プロローグのド頭には、法律家であり、政治家であり、『美味礼賛』の作者としても知られ、チーズの名前にもなっているジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランのこの名言が引用されています。
果たして7名の著者が世界各地で出会った新しい御馳走の数々は、私たち読者に天体の発見以上に幸福な発見をもたらしてくれるのか。あえてその答えの言及は避けます。ここから先はぜひご自身でご確認ください。
なお、一冊の紀行エッセイ内でこれだけ腹を下した話が出てくる作品はなかなかお目にかかれない旨も書き添えておきます。
※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。
【おまけ】本書内で嵐さんが紹介しているカンボジア裏名物のマリファナをトッピングしたピザ、通称ハッピー・ピザについては、当ブログでも2020年にレポート済み(※1)。ご興味のある方は併せてこちらからチェックしていただけると嬉しいです。
※1:2022年に隣国のタイが大麻を合法化した流れを受けて、もしかしたらカンボジアも記事を書いた当時よりさらに緩くなっているかもしれません。ただし、国外であっても日本人には日本の刑法が適用されるのでご注意を。加えて、私は大麻推進派ではなく反対派でもなくノーサイドです。
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