FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

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嵐よういち『海外ブラックマップ』|読書旅vol.78

今月は彩図社の読書感想文しかアップしないという縛りを設けました。創業30周年を祝して……というのは後付けで、ただの気分の問題です。まずは、同出版社の旅行書カテゴリーにおける代表作家と言って差し支えない嵐よういちさんから。

なお、当ブログで嵐さんの著書を紹介するのはこれが3回目。過去に投稿した『海外ブラックロード』(※詳しくはこちら)と『おそロシアに行ってきた』(※詳しくはこちら)も併せてチェックしていただけたら嬉しいです。

 

世界一危険な街決定戦

さて、そろそろ本題へ。2006年刊行、2011年に一部加筆して文庫化している『海外ブラックマップ』(彩図社)は、嵐さんの著書の中でも個人的に一二を争う好きな作品です。

何でも、当時50か国以上を訪れていた嵐さんが、〈世界中のゲストハウスでバックパッカーたちがよく話題にしている、世界の危ない街をまとめたらおもしろいんじゃないか〉との思いつきから誕生した一冊だとか。

彩図社の名物編集者がこの手の企画に乗らないわけもなく、それどころか、〈ヨハネスブルグキングストンも追加で取材してきてよ〉と情け容赦ないミッションを著者に課し、果たして世界一危険な街決定戦の様相を呈してしまいました。

軽い気持ちで〈危ない街をまとめたらおもしろいんじゃないか〉と口を滑らせてしまったことを、おそらくご本人は取材中に激しく後悔したはずです。

もっとも、担当編集者からのハードな指令なくして、この本は完成し得なかったでしょう。いち読者としては、作家と編集者のプロ魂に感謝する以外ありません。

 

危険な街TOP20

世界の危険な20都市がテンポ良く紹介されていく『海外ブラックマップ』。それぞれの街には差別度・美人度・物価・治安の傾向の星評価も付いています(美人度は必要なの?)。

その栄えあるTOP20にランクインした都市は以下の通り。並びは著者の独断による危険度の高い順です。

いかがでしょうか? あくまでも嵐さんの私的見解によるランキングにつき、異論反論はあって然るべき。それに、治安の悪さ社会情勢によって時代ごとに大きく変化するものです。

文庫版の注釈では、コカインを牛耳るマフィアがコロンビアからメキシコに移ったことでボゴダの治安は改善され、変わりにメキシコのチワワ州が大変な状態になっている……といった旨が書かれています。

また、ニューヨークにしたって、コロナ禍で犯罪率が上がっているとはいえ、嵐さんが住んでいた90年代前半ジュリアーニ元市長の就任前)の荒れ方は現在の比じゃないと考えられます。

加えて、外務省が発表している危険度マップも、コロナ以降は感染症の項目が大々的にフィーチャーされるなど、危険度を判断するヴェクトルは以前より多方面に向けなければいけません。

案の定、Amazonのレヴュワーの中には、ナルシスティックな武勇伝だの、情報が偏っているだの、何だのと、本書をコキ下している人がチラホラいました。嵐さんの文章は往々にして強気で、良くも悪くもやや偉そうに見え、信者が多い反面、アンチも多いことは存じております。

しかし、私自身、こういう企画は独りよがりであればあるほどおもしろいと思っているフシがあり、もっと言うと、それを受けて〈ああでもない、こうでもない〉と自分なりに考えを巡らせるまでがワンセットだと捉えています。

だからほとんどの低評価レヴューは論点が微妙にズレている気がしてならず、それをせっせと書き込んだアンチたちへ、改めて嫌味たっぷりに〈ご苦労様です〉と言いたいです。

凶悪都市の情報は個々の旅行者から断片的に得られるだけで、ひとくくりに語られることは少ない。理由は簡単だ。世界中の凶悪都市を旅したことのあるやつなど、ほとんどいないからだ。

その通り。情報がまとめられていること自体に意味があり、ついでに、願わくは高野秀行さんや丸山ゴンザレスさんやクーロン黒沢さんらが超独断で描いたブラックマップもいつか見てみたい限りです。

 

危険な街の歩き方

嵐さんは、文中で危険都市を以下の3パターンに分類。

1. 気をつけていればたいしたことがないところ。旅慣れている人だったら問題ない。本書の中から挙げると、ホーチミンベトナム)、アムステルダム(オランダ)、ブタペスト(ハンガリー)などだ。

2. 旅の達人・経験豊富な人なら問題ないが、旅慣れていない人はヤラれる確率がかなり高いところ。デリー・カルカッタ(インド)、ボゴタ(コロンビア)、リマ(ペルー)など。

3. いくら旅慣れていたとしても、関係なくヤラれるところ。運がよければ被害に遭わないが、悪ければヒドイ目に遭う。例を上げれば、ヨハネスブルグ(南ア)、キングストン(ジャマイカ)、ナイロビ(ケニア)だろう。

3番目がヤバすぎます。ソマリアから大量の武器が流入し、銃本体が1ドル程度で購入できるらしいナイロビについては、こんな記述もありました。

決して強盗をおいかけてはいけない。ここでは少しの盗みも重罪になるから、つかまって罪を受けるぐらいなら殺してしまったほうがいいと思っている。抵抗しないのがベストだ。

モンバサで悪童たちに身ぐるみ剥され、ウ○コを漏らしてしまった以外、幸運にも大きな被害には遭っていない嵐さん(いや、身ぐるみ剥されている時点で十分凄まじいか)。

旅仲間から耳にしたトラブル事例を引き合いに出しつつ、実際に現地に赴き、肌で感じた空気をかなり率直な言葉で綴られていきます。

アンチたちは著者当人が大きなトラブルに見舞われていない点を執拗に責めているわけですが、いやいや、どう考えても被害になんて遭わないほうがいいでしょう。ネタ探し目的でみずから生死に関わるトラブルへ首を突っ込まれても、それこそナルシスティックな武勇伝で終わってしまいます。

現実問題、本作に名前が挙がっている都市では、これまでに多くの日本人ツーリストが何らかの事件に巻き込まれた末、行方不明になったまま。超セーフティー旅行者の私でさえ、旅先で日本人の名前が記されたMissingの張り紙をけっこう見てきたくらいです。

長きに渡って治安の悪い都市に行っている嵐さんがなぜ無事なのか。それは運の良さにプラスして、高い危機察知能力を備えているからに他なりません。

スリ集団に尾行された際、一緒にいた友人は嵐さん以外の誰も不穏な気配を感じていなかったらしく、このエピソードからも窺える通りしっかりと警戒しながら旅を続けられています。

南米の腐りきったポリスの話などブッ飛んだネタも本書の大きな見どころではあるものの、それと同じくらい魅力なのが、嵐さんの行動様式から海外旅行の心得を学べる点。

例えば、どんなに割高だろうが空港からは白タクじゃなくプリペイドタクシーをチョイスし、テロや犯罪多発地域での長距離移動は乗り合いバスを避けるなど、移動にかかる費用はケチらなかったり、万が一、暴力を厭わないタイプの強盗と鉢合わせた事態を想定して相手の納得する額の相場を必ず把握していたり……。

こういう本を通じてリスク回避術を学ぶのはとても大事。でもまあ、学習したケーススタディーをいくら遺憾なく実践に活かせるとしても、ヨハネスやナイロビ級の恐ろしい場所(=注意していてもヒドイ目に遭う危険地帯)はあんまり歩きたいと思わないですけどね。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

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