FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

花田博・花田昌子『サンティアゴ巡礼記: ゆっくりカミーノ』|読書旅vol.90

前回ピックアップした『ドイツの犬はなぜ幸せか: 犬の権利、人の義務』は、サッカー日本代表カタールW杯の初陣で対戦するドイツを舞台にした作品でした(※表題通り内容はサッカーと何の関係もありません)。

それに続いて紹介するのは、『サンティアゴ礼記: ゆっくりカミーノ』(2010年/書肆侃侃房)。本当は2戦目の相手国=コスタリカの本を選びたかったのですが、コスタリカに特化した書籍が見つからず、1つ飛ばして3戦目に戦うスペインへ意識を向けてみます。

 

スペインを疑似旅行

この『サンティアゴ礼記: ゆっくりカミーノ』は、70代に突入したご夫婦がサンティアゴ詣でに挑戦する紀行エッセイです。

花田博さんは精密機器メーカーに長年勤務された元会社員、昌子さんはライター兼翻訳家。花田夫妻は還暦すぎて深田久弥百名山に登頂し、2004年に『ゆっくり気ままに百名山』(慧文社)なる作品も出版されています。

サンティアゴ巡礼とは、キリスト教3大巡礼地の1つに数えられるサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指すもの。巡礼証明書の発行対象となる移動手段は徒歩、自転車、騎馬、車椅子の4つ(NPO法人日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会のホームページ参照)。

主なルートも4種類あり、その中で2人はもっともポピュラーなCamino France(フランス人の道)をチョイスします。ポピュラーな巡礼路といえども、スペイン国境近くのフランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポールを出発地点に、ピレネー山脈を超え、スペインを横断する約800キロの道のりは、そうとうタフ。それを70代の2人が3年掛かり計3回に分けて歩くんですよ。凄くないですか?

 

夫婦のバランス

サンティアゴ巡礼には一定のリズムがあるらしく、巡礼者たちは前の晩に宿泊した町や村を朝早く一斉に出発し、緩いまとまりの一団となって移動。途中のバールで休憩昼食を取り、午後2時から4時にかけてその日の宿を探してお昼寝。その後、夕食にありつくのだとか。

道中でご夫婦がスケッチした挿画と共に、田園風景歴史ある建物の美しさを想像してウットリしたり、ワイン祭りの喧騒を思い描いてワクワクしたり、ヴァラエティー豊かなご当地料理の描写に何度も喉が鳴ったりしながら、私たち読者も、ゆっくりと、しかし着実に目的地へ近づいていきます。

本の構成は1日ずつの日記仕立てで、基本的に博さんと昌子さんが交互となり、その日の出来事を綴るスタイル。同じ道を同じ時間に同じ歩調で進んでいるのに、全然違う視点になっているところがツボでした。

相手に対する寄り添い方もご夫婦バラバラ。昌子さんの靴擦れを心配し、はたまた下り道が苦手な彼女を気遣って、無理せず予定よりも手前の村で宿泊場所を探す博さんの姿には、妻への愛情がひしひしと。

妻の誕生日にいつもと違う雰囲気のレストランで食事しようと提案するも、あっさり断られてしまうシーンなんかは、思わずクスッとさせられます。

一方、例えば「(宿の部屋に)トイレットペーパーがなかったが、珍しく夫がもらって来てくれた」などという昌子さんの文章からは、〈普段は雑事を私に任せっきりで……〉的な愚痴っぽいニュアンスが時折顔を出しつつ、やはりこちらも物凄く愛情を感じるもの(ほぼノロケ)。本当に素敵なご夫婦で、バランスが絶妙です。

 

夢の続きは……

30年以上〈サンティアゴ・デ・コンポステーラへ行きたい!〉と思い続け、やがて〈せっかくなら普通の観光ではなく徒歩で……〉と考えはじめた昌子さん。とはいえ、手近な資料もなく、交通の便が悪いスペイン北部を旅する機会にはなかなか恵まれなかったそうです。

そんななか、2006年に偶然立ち寄ったロンドンの本屋で『A Pilgrim's Guide to the Camino de Santiago』なるガイドブックと出会い、翌2007年にはさっそく夫婦でサンティアゴ巡礼にチャレンジ(何たる行動力!)。

ネットで検索すれば、わりと簡単に日本語のブログでもサンティアゴ巡礼の断片的なレポートは読めます。

だけど、スタートからゴールまでの毎日を追った『サンティアゴ礼記: ゆっくりカミーノ』では、地図はもとより、宿代食事代が事細かに記録されているほか、巡礼で必須のスペイン語一覧まで掲載。

読み物としてのおもしろさのみならず、実用性もしっかり備えていて、かつての昌子さんのように〈いつかサンティアゴ・デ・コンポステーラへ行ってみたい〉と夢見ている方をガッツリ後押ししてくれるだろう一冊です。この作品を参考にサンティアゴ巡礼を敢行した日本人は間違いなくいるはず。

長年の夢を叶え、その体験を伝えることで、それがまた誰か他の人の夢をサポートするって、何と素晴らしいサイクルなのでしょうか。

別にその夢がサンティアゴ巡礼じゃなくてもいいんです。事実、私もいま自分の心がご夫婦の紀行文によって奮い立たされているのを感じています。

……と、見事にサッカーとは無縁のオチになってしまいました。まあ、いいか。ちなみに、世界中のさまざまな地域から訪れる巡礼者についても触れられている本書。日本がW杯初戦で戦うドイツの人々に関しては、「ドイツ語しか話さず、輪の中から孤立しがち」との記載もありましたっけ(※この引用の深い意味はありません)。

果たして、ドイツ・スペインと続いたW杯出場国に関する読書旅シリーズは、このまま回を重ねていくのか。自分自身、すでに方向性をだいぶ見失っているのはここだけの話です。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

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