FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

グレーフェ彧子『ドイツの犬はなぜ幸せか: 犬の権利、人の義務』|読書旅vol.89

「世紀の祭典」と呼ばれる4年に1度のW杯において、日本代表のみを応援し、楽しむだけではもったいない。

上記は、前回ピックアップした『世界一蹴の旅 サッカーワールドカップ出場32カ国周遊記』のプロローグにある一節(※詳しくはこちら)。その通りだと思います。

今年6月に国立競技場で行われた日本対ブラジル戦の後、権田修一選手が〈みんな、ブラジルを見にきていたのが悲しくて……〉とコメントされていました。

確かにテレビで観ていても、スタンドにはブラジル代表のユニフォームを着たお客さんがかなりの数いた印象。選手の立場からすると、さぞかし悔しかったに違いありません。

でも、それはそれで日本っぽい光景だな~と。外国かぶれでサッカー大国への憧れが強く、ミーハーなんですよ。そして、私自身はそういうノリが嫌いじゃない派です(もちろん日本代表もめちゃくちゃ応援しています)。

 

W杯初戦の相手、ドイツを疑似滞在

そんなわけで、2018年の前回大会ではついに総視聴者数が世界人口の半数を超えた世紀の祭典を前に、〈日本代表のみを応援し、楽しむだけではもったいない〉と、まずは初戦の相手国=ドイツにまつわる作品を本棚から引っ張り出してみました。

『世界一蹴の旅』を実行したアシシさんやヨモケンさんみたいに、ふらっと現地には行けずとも、せめて読書で疑似体験しようといった魂胆です。

はい、前置きが長くなりました。本稿の主役はグレーフェ彧子さんの『ドイツの犬はなぜ幸せか: 犬の権利、人の義務』(中央公論新社)。ペット先進国としてのドイツにスポットを当てた作品です。サッカーと1ミリも関係のない点におきましては、どうか見過ごしてやってください。

グレートデーンジャーマンシェパードドーベルマンにボクサーなど、ドイツ原産の大型犬はどれも迫力たっぷり。守護神ノイアーを筆頭に高身長揃いな代表メンバーと共通する部分がありそうだな……と、強引にワンコサッカーを絡めてみようかとも思いつつ、流石に無理があるので普通に感想文を書いていきます。

 

ドイツから学ぶ

名古屋で生まれ、20代後半にドイツ人男性と結婚するためミュンヘンへ渡ったグレーフェ彧子さん。渡独後は現地の大学で日本文化美術の講師を務める傍ら、複数の著作を介し、ドイツでの暮らしぶりを日本の読者に伝えてくれています。

熊谷徹さんの『住まなきゃわからないドイツ』を取り上げた記事でも軽く触れた通り(※詳しくはこちら)、現在の日本が直面しているいくつかの社会問題と一足早く対峙してきたドイツ。

日本政府の打ち出す施策の一部がドイツをモデルにしている様子は、各省庁発表のレポート内でも確認できます。

そういった小難しいあれこれを、グレーフェ彧子さんは市民の目線でわかりやすく解説。例えば『ドイツの姑を介護して』では少子高齢化について、『ドイツ快適住宅物語』では環境保全を考慮した住宅事情について……といった具合です。

1996年に『犬の権利、人の義務』とのタイトルで刊行、2000年に加筆+改題して文庫化された本書『ドイツの犬はなぜ幸せか: 犬の権利、人の義務』もまた非常に学びの多い一冊。

愛犬家の方は言わずもがな、コロナ禍による経済的困窮でペットを手放す人、もしくは在宅時間の増加でペットを飼うも飼育放棄する人が増え、殺処分の増加が懸念されているいまこそ、社会全体の課題としてもっと広い層に読まれてほしい作品だと感じています。

 

犬嫌いが大の犬好きへ

この本は、ドイツの一匹の犬の日常生活をありのまま綴ったものです。愛犬ボニー自身が書いた手記という形をとっていますが、登場する犬や人物もすべて実在し、ストーリーもノンフィクションですすめました(まえがきより)。

『ドイツの犬はなぜ幸せか』の最大の特徴はこれです。愛犬ボニーちゃんが本当にそう感じていたか否かは、ボニーちゃんのみぞ知る部分ではありながら、1つ1つの動作を細かく観察し、それが丁寧に言語化されていて、ワンちゃんを飼われている方には間違いなく共感の嵐

しかも、ボニーちゃん目線で書くことで、グレーフェ家の犬バカぶりも微笑ましく映る効果があったり(飼い主目線だと〈うちの子自慢〉の要素が強く出すぎる?)、保護犬/保護猫問題に言及する場面もより痛々しさが増したり……。

〈愛犬ボニー自身が書いた手記〉というスタイルを閃いた時点で、この本の成功はほぼ約束されたも同然でしょう。

ちなみに、著者はもともと犬が苦手だったらしいです。ところが、ボニーちゃんを家族に迎え入れるや、すぐさま虜になり、いつしか動物の生態学まで勉強し、本作を執筆するに至るのだから、ワンコの魅力ってハンパない。

愛犬を主語に本書を執筆したのだって、「言葉を語らない犬の立場や気持ちをできるだけ理解してやりたい」との思いがあったと、あとがきで綴られていました。

 

これぞペット先進国

本書を読んで知ったドイツと日本の大きな違いは、ワンちゃんやネコちゃんにも市民権的なものが与えられ、税金のほかにもさまざまな義務が課さられ、その義務を遂行するための支援制度も整っている点。

ほとんどのホテルやレストラン、ショッピングモール、公共交通機関ペット同伴可で、公園によってはリードなしお散歩させられるぶん、しつけなどに関する法整備もそうとう進んでいます。

排泄物の始末にも、餌の種類にも、外飼いする際に必要な犬小屋の面積散歩時間にも、規則が設けられ、なかには住宅街で10分以上の無駄吠えに罰金を支払わなければいけないとの取り決めまで!

また、人間社会に犬を順応させるルール作りのみならず、動物行動学の観点で仔犬が母犬から離れる時期を生後8週間以降と定めていることや、しつけ学校とは別に、幼犬を対象とした犬同士の社会性を養うための幼稚園が存在することなど、ドイツでは犬本来の幸せも決して蔑ろにはしていません。

ペットは家族です。しかし、本当に家族だと思っているなら、ただただ可愛がるのではなく、ダメな行動はきちんと正す責任があるし、ワンコならワンコとしての、ニャンコならニャンコのとしての人生(犬生? 猫生?)も謳歌できるようサポートしてあげるのが飼い主の務め

ペットたちにとって素晴らしい環境のドイツは、飼い主にとって物凄く大変な国なんだな~としみじみ感じました。まあ、生き物を飼うって本来はこれぐらい大変であるべきだと思いますけどね。

ウニオン・ベルリンに所属し、ドイツでラブラドールレトリーバー2頭飼いしている原口元気選手のインスタも、『ドイツの犬はなぜ幸せか』を読了後にはもっと強い愛おしさ尊敬が入り混じって見えてくるはず。

……なんて、わざとらしくラストにサッカー絡みの話題をブチ込んでみたものの、ここへきて当ブログのメイン・テーマである旅の要素がゴソッと抜けている事実に気付いてしまいました。もう手遅れ。軌道修正は諦めて、今回はこのあたりでお開きとさせていただきます。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

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