FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

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クーロン黒沢/皿井タレー/エポック伊藤『さわやかタイ読本: 国際奇人変人都市・バンコクへようこそ!』|読書旅vol.92

『東南アジア四次元日記』を再読し(※詳しくはこちら)、東南アジアのおもしろさを改めて確認したところで、今度はバンコクにズームイン。大作『さわやかタイ読本: 国際奇人変人都市・バンコクへようこそ!』(2002年/太田出版)をピックアップしてみました。

 

すがすがしい街ネタ中心?

バンコクと言えば、アメリカの有力旅行雑誌『Travel + Leisure』の人気企画〈Best Cities〉で今年も東南アジアNo.1の座を射止めたほか、ツーリストの心を掴んで離さない魅惑の都市。

この街の魅力をありのまま伝えんと、いまから約20年前に立ち上がったのが、クーロン黒沢さんと皿井タレーさん、エポック伊藤さんの3名です(※メインで執筆されているのは黒沢さんと皿井さん)。

黒沢さんの略歴は『裏アジア紀行』を紹介したこちらの記事内で触れていますので、今回は割愛。皿井さんは次の回で単著を取り上げる予定のため、簡単なプロフィールはそっちに譲ります。

そしてもう一人、プロローグに「カオサンとヤワラー(中華街)ふた筋のタイ・マニア」と書かれている謎多き伊藤さんは、2016年に黒沢さんとの共著『大人のためのドローン入門』を発表(本業は不明)。

この限られた情報から、放浪癖のあるメカ好き→良い意味で(?)少年のような心を持った方なのだろうと勝手に想像しています。

さて、そんな3人が「真摯な姿勢で執筆に取り組んだ」と語る『さわやかタイ読本』は、「一般婦女子に読んでもらえる、すがすがしい街ネタ中心のさわやかなタイ本」をコンセプトに掲げて制作スタート。

90年代半ばまではバックパッカーの聖地と謳われたバンコクも、2000年代の突入と前後して本場のエスニック料理やアジアン雑貨、オーガニック・スパを求めるきれいめ女子旅の需要が急増。

タイミング的にも本の方向性はバッチリです。果たして『さわやかタイ読本』は、すがすがしい街ネタ中心のさわやかなタイ本に仕上がったのでしょうか……。

 

ナニの売人やアレな人たち

残念ながら結果は否。一応、序盤には1泊何万バーツもするスコータイ・ホテルの宿泊レポや、オリエンタル・ホテルのランチ・ビュッフェ情報をはじめ、女性ウケ抜群の煌びやかなトピックも用意されています。

しかし、騙されちゃいけません。キラキラ系のネタはあくまでも底辺ランクの宿泊施設やグルメを際立たせるための当て馬ポジション

本書で頻出するエリアはナナパッポンヤワラー。そう、ナニの売人やアレな人たちの話題ばかりです。

伝説の日本人宿ジュライ・ホテルに沈没する方々の間でアイドル的な存在だったポンちゃんのお墓参りエピソードまではよしとしましょう。ごく一部の人にはとても大事な情報っぽいですし……。

でも、その旧ジュライの目と鼻の先に陣取る売春婦(黒沢さん曰く「ブス・デブ・ババアの三拍子揃った怪物」)が本当に売れるのか、飲み屋の屋台から何時間もじっと眺めていた際の調査報告にいたっては、いったい誰が得をするのやら。

ほかにも、駐妻をターゲットにした精巧な偽ブランド品の訪問セールスや、フツーにケタミンが売られている薬局の実態、カオサンでの大麻の買い方などなど、グレーな、いや、真っ黒な耳より情報がテンコ盛り。まあ、カオサン云々は大麻解禁となったいまとなれば時効ですかね。

 

資料的価値はある……と思いたい(笑)

そんなこんなで、本の中身はさわやかの真逆を突っ走る『さわやかタイ読本』。著者に関する前知識をまったく持たず、発売当時、タイトル買いしてしまった方には心より同情します。

で、本書が世に出て20年が過ぎた現在。まだまだ成長を止めないバンコクは、ちょっと行かない間に新しいビルがドカドカ建ったり、線路が拡張されたり……。

したがって、〈大昔に書かれた本なんて役に立つの?〉〈何で2020年代にあえてこの本を紹介したの?〉と当ブログを読んで疑問に思われている方がいても無理はありません。実際にいまはなき珍スポットもチラホラ。物価だってだいぶ違います。

それでも、ルンピニ公園※詳しくはこちら)がかつて夜な夜なハッテン場薬物取引買春のメッカだったこと、さらに夜間閉鎖になって以降も公園を取り囲む3キロ強の歩道にずらっと街娼が並び、不自然にノロノロ渋滞が起こっていたことなどは、きちんと後世に語り継いでいく価値あり。

街のクリーンアップを目指した取り組みがガンガン実行されるなか、良いものも悪いものもひっくるめてバンコクらしさを印象付けてきた文化習慣が風化する前に、誰かがこういう仕事をやらなければならなかったのでしょう。

……ってほど大それた話ではないかもしれませんが、20年経ったからこそ、より本書の衝撃度破壊力が増しているのは確か。

現地に出回る日本語情報誌の怪しい広告一覧から、改造バイクや脱力系テーマパーク、各ネオン街の様相、肉体労働者の愛飲ドリンク、警察グッズが買えるショップ、シャブ中のタクシー運転手……その他諸々、隠し撮り写真満載でヴォリューム過多にまとめられた一冊。

一般的なガイドブックには決して載らない(載せちゃいけない)、バンコクの裏道を覗き見したい方にはめちゃくちゃオススメです。めちゃくちゃエキサイティングです。ついでに、皿井さんを中心とした続編『まろやかタイ読本』も出ています。

1つ留意点を述べておくと、悔しいかな、『さわやか』も『まろやか』もすでに絶版した作品につき、ご興味のある方はメルカリ古本屋でどうぞ。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

 

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