前回の『さわやかタイ読本』(※詳しくはこちら)の延長線上で、今回はクーロン黒沢さんやエポック伊藤さんと共に同書を執筆された皿井タレーさんの『バンコクジャパニーズ列伝 いろいろあってバンコクにいます』(彩図社)をご紹介します。
何かを極めた在バンコク日本人
1996年よりバンコクに居を構える皿井さんは、HP『メイドインタイライド』(※令和の幕開けとほぼ同時期に閉鎖。アーカイヴはこちらで閲覧可能です)を立ち上げて以降、雑誌やフリーペーパー、そして数々の書籍を通じて、リアルなタイ情報を発信し続けるフリーライター。
直近の動向は調べ不足で把握できていないのですが(ごめんなさい)、運悪くパンデミック宣言の数日後に刊行となった最新作『バンコク裏の歩き方 2019-20年度版』でも、延伸されたBTS新7駅のB級スポット案内に夜遊びガイド、ビザ延長のノウハウまで、ややニッチなニーズに全力で応えてくれています。
さて、『バンコクジャパニーズ列伝』の話。この本はもともと2005年に双葉社より出版され、2012年に彩図社から文庫化されました。
5万人、あるいは、それ以上とも言われる「バンジャパ」の中から、有名無名問わず、この人はあるベクトルを極めてる……と、私が勝手にリスペクトする凄い方々との出会いをまとめたのが、本書である。
念のため補足すると、バンジャパとはバンコク・ジャパニーズの略で、バンコク在住、または日本から頻繁にバンコクを訪れる日本人。たぶん皿井さんが言いはじめた言葉だと思われます(あんまり浸透はしていません)。
ちなみに、大幅に改訂した文庫版には、何かを極めしバンジャパたちのその後の状況が掲載されているほか、一時期はホームレスにまで落ちぶれた伝説の外こもりすと、ふくちゃんのインタヴューも追加収録。言わずもがな、文庫のほうが断然オススメです。上掲の表紙画像もあえて彩図社ヴァージョンにしてみました。
懐深い天使の都
ここに出てくるのは、レディボーイ・アイドルや日本のオタク文化普及に尽力するキャリアウーマン、カオサンに沈没するムエタイ・マニア、ゴーゴーバーでバブリーな乱痴気騒ぎに興じる謎のビジネスマン、旅行代理店のヤリ手女社長などなど合計12人。そのなかには、人気エロ漫画化の猫島礼先生も顔を並べています。
年齢、性別、趣味趣向、すべてが見事なほどバラバラ。それぞれの7年後だって、事業を拡大してさらなる成功を掴んだ人もいれば、日本に戻った人も、消息不明の人も、服役していた人もいて、本当にバラバラです。
海外で奮闘する邦人たちを追った本というと、当ブログでは以前に川内有緒さんの2010年作『パリでメシを食う。』の感想文を投稿しています(※詳しくはこちら)。
その『パリでメシを食う。』でスポットが当たっていたのは、花屋やカフェのオーナー、三ツ星レストランのシェフ、芸術家といった方々。わりと近しいコンセプトの本でも、こうも内容が異なるとは……。
それはやはり、奇人変人や犯罪スレスレのグレーな人々を寄せつける皿井さんの特殊能力に加え、バンコクという土地柄あっての結果と言えるでしょうか。
金持ちも貧乏人も、野心がある人もない人も、ノンケもそうでない人も、何だかんだでみんなを優しく受け入れてくれるバンコク。そこで沈むか這い上がるかは、その人次第ではありつつも、改めてこの街の懐深さに触れた思いです。
人生を楽しむコツ
タイトルに列伝とあるくらいですから、登場人物は揃いも揃って振り切れまくった凄キャラだらけ。よって、凡人の私にはなかなか参考にしにくいケースが多いとはいえ、読書中に心が震えた瞬間もいくつかありました。
元地上げ屋から僧侶に転身した藤川清弘さんの語る仏教哲学(藤川和尚の壮絶な人生が知れる『タイでオモロイ坊主になってもうた』もぜひ)や、人気カラオケバー『ウッドボール』のオーナーによる事業を軌道に乗せるまでの苦労話あたりは、その最たる例。
また、小学生の頃に読んだ『スタンド・バイ・ミー』に触発され、死体を見たい一心で、死体写真家・釣崎清隆さんの「死体を見るならタイに行け」との言葉を胸にタイへ渡った髙田胤臣さんは、本書をきっかけにライター・デビュー。
先述した『バンコク裏の歩き方』シリーズを皿井さんと共作し、それと前後して、ラオスの不発弾問題に斬り込んだ『ラオスに残る、アメリカの爪痕』(2013年)、アジア各地の怪異譚『亜細亜熱帯怪談』(2019年)を発表するなど、精力的な執筆活動を行っています。
そんなバンコク・ドリームをモノにした髙田さんの姿は、現在進行形で夢を追い掛けている人にとって凄く励みになる……かもしれません。
総じて、何かに熱中している人の話はおもしろいな~と心底感じさせてくれる『バンコクジャパニーズ列伝』。
方向性さえ間違っていなければ(←ここ重要)、熱中することでその人自身にとっての成功の確度は上がる気がしますし、だから私も生きている間はずっと何かに熱中し続けていきたいと改めて思いました。
お下品な表現とよくわからない専門用語がやたらと飛び交い、子どもには絶対に触れさせたくない作品なのに、なぜだろう、自分でも意外なほど、私はこの本から人生を楽しむコツを学んでいるみたいです。
※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。
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