FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

本山尚義『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』|読書旅vol.7

今回は『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』(ライツ社/2017年)を選んでみました。当ブログでレシピ本を取り上げるのは、きっと最初で最後になるはず。

前回TABIPPOの『僕らの人生を変えた世界一周』(いろは出版)をピックアップし、その流れで2作目以降のTABIPPO関連書籍を出版しているライツ社に何となく意識が飛び、これまた何となく『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』へ辿り着いた次第です。

 

独立系出版社が業界の未来を照らす?

本題へ入る前に、まずはライツ社について補足させてください。兵庫県明石市に拠点を置くライツ社は、もともといろは出版にいた編集者の大塚啓志郎さんが2016年に立ち上げた小さな会社(祝5周年!)。

〈writes right light――書く力で、まっすぐに、照らす〉を合言葉に、実用書や小説、写真集などなど、扱うジャンルは多岐に渡りますが、総じてややニッチな匂いのする出版社です。

例えば写真下の『ウユニ塩湖完全ガイド』(2017年)もめちゃくちゃ的を絞りすぎて、「大手じゃなかなか手が出せない領域だろうな~」といった具合。

f:id:emi13_farout:20210709190646j:plain

かれこれ私が大学生の頃から、いや、たぶんそれ以前から、「本が売れない」とか「有名な取次会社や書店が倒産した」とか、出版業界を取り巻く話題はネガティヴなものばかりでした。

けれどもその一方、2015年を前後してユニークな独立系出版社が頭角を現し、「むしろ日本の出版業界っていま結構おもしろいじゃん!」と感じる瞬間もしばしば。

それこそCDやレコードは日常的にレーベル買いしていたのに、本に関しては出版社買いする習慣がほぼなかった私。これが意識してみると案外楽しくて。まあ、こんなこと書いたら、ガチの本好きから「何をいまさら言っているんだ?」と鼻で笑われちゃいますね。

 

誰かに贈りたくなる本

……って、話が脱線しました。初めて私が買ったライツ社の作品は、世界遺産画家・松田光一さんの『夢を叶える塗り絵 奇跡の星の世界遺産』(2017年)。確か最初は友達へのプレゼント用にゲットしたと記憶しています。

f:id:emi13_farout:20210709191214j:plain

テレビ的な注目も集めたヨシダナギさんの写真集2冊――アフリカの少数民族を被写体にした『HEROES』(2018年 *画像下)と、ドラァグ・クイーンを追った『DRAG QUEEN -No Light, No Queen-』(2020年)も然り、ライツ社の本は誰かに贈りたくなったり、折に触れてパラパラめくりたくなったりするんですよね。

f:id:emi13_farout:20210709191546j:plain

ちなみに、「コロナが落ち着くまでこのブログを旅ブログから読書ブログにします!」と謎に宣言している回で(*詳しくはこちら)、理想のブックガイドとして紹介した三宅香帆さんの『人生を狂わす名著50』(2017年)もライツ社から。

f:id:emi13_farout:20210709191424j:plain

この本は見返しをめくって扉のすぐ後に、罫線が引かれた空欄のページが出てきます。てっきり「自分自身の〈人生を狂わす名著〉を書くスペースなのかな?」と思っていたものの、「プレゼント相手へのメッセージをこの欄に書いてねっていう意図だったのか!」といま気付きました。

 

1冊のレシピ本にたくさんの想いを詰めて……

ここでやっと本稿の主役『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』の登場です。本書も例に漏れずギフト向き

実際に海外旅行好きの友人(当時妊娠中)が「当分の間はどこも行けないな~」と嘆いていたので、出産祝いと併せてこれを贈った経験があります。

で、しばらく本の存在を忘れていた2020年4月、『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』が突如バズる事態に。何とライツ社の公式noteで全レシピが無料公開されたんですよ。記事の最後にリンクを貼っておきます。

f:id:emi13_farout:20210709191914j:plain

そこには著者の本山尚義さんから「コロナ禍だからこそ、世界の味を楽しんで欲しい。旅行には行けないけど、味の世界旅行はできます」との言葉が添えられていました。このnoteを見た私は「優しい人がいるもんだな~」「世の中って温かいな~」と心底感動。

そして、こんなに素晴らしいコンテンツを無料で見るのが申し訳なくなり、『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』を購入したわけです。超が付くほど料理が苦手なくせに(得意げに書くことではない)。

とはいえ、私と同じく料理音痴で、自分で作るには至らない方でも、この本は十二分に楽しめる内容です。

f:id:emi13_farout:20210709192414j:plain

そもそも著者の本山尚義さんは日本でフランス料理地中海料理を学び、ホテルの料理長も経験している人物。27歳の時にインドでスパイスの魅力に取り憑かれ、やがて世界30か国を旅しながら現地で料理修行を行ったそうです。

帰国後は兵庫県にて世界のごちそうPalermoを開店(現在はお店を畳み、世界の味をレトルトにして販売する世界のごちそう博物館を主宰)。

2010~2012年には2週間ごとに4か国の料理を新メニューとして発表していく、題して〈世界のごちそうアースマラソン〉なるイヴェントを開催されています。

そのとんでもない企画から派生したのが同レシピ本。196の国の料理を自分のお店で提供するシェフがいるとは、しかもそのレシピを1冊の本にまとめようと考えた編集者がいるとは、常軌を逸しているとしか思えません。

f:id:emi13_farout:20210709192711j:plain

その異常ぶり(褒めています)は、細かすぎる索引欄にもありありと。〈ごはんもの〉〈メインのおかず〉〈副菜〉など献立別の索引に始まり、続いて〈おうちの定番に〉〈お弁当用に〉他、シーン別の索引がお目見え。

〈子どもと作りたい〉なんて項目は、外出自粛中にはとりわけ重宝するに違いないです。ここまではまだ常識の範囲内。

しかし、組み合わせから探すシェフのオススメ索引、そして地図での索引と、索引だけで合計4パターンも掲載しているんですよ。

眺めているぶんには楽しいですし、何よりいろいろなニーズに応えてくれて読者目線ではとても助かります。が、制作側の立場で考えると気の遠くなる作業。正気の沙汰じゃないです(もちろん褒めています)。

 

料理を作らなくても楽しい!

かくして、物凄い熱量物凄いこだわりに溢れる1冊となった『全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ』。以下、とても素敵なあとがきを引用させていただきます。

人に出会ったときに仲良くなる、わたしなりのコツをお教えします。(中略)まずは「どこの国から来たの?」と聞いて、わたしがその国の料理の名前を言うと「何で知ってるの!?」という感じでテンションが上がります。「食べたことあるの?」と聞かれ、「実は作ったことある」と言ったら、さらに盛り上がって、もう友達です。料理という入口が仲良くなるきっかけになるんです。

本当にその通り。「実は作ったことある」とまでは言えずとも、相手の国の食文化を知り、「こんな料理があるんでしょ? どういう味なの?」「●●っぽい味だよ」「え~、食べたい!」的な会話をすれば、グッと人との距離は縮まりますよね。

f:id:emi13_farout:20210709193350j:plain

そういう観点で捉えると本書が旅の教科書みたいに思えてきますし、「いまこの地域では誰かがこの料理を食べているんだろうな~」と想像するだけで、コロナ自粛によって遠ざかっていた海の向こうの国々が一気に身近に感じられ、ワクワクが止まらなくなります。

ついでにもう1つ、先日ご紹介した『謎の独立国家ソマリランド』(2013年/本の雑誌社)の中で高野秀行さんが絶賛していたソマリア料理も、カラー写真で見たら美味しそうなの何のって。

「高野さんが〈日本人にもよく合う〉とおっしゃっていたのは、こういう料理だったのか!」としっかりおさらいできました。

f:id:emi13_farout:20210709193613j:plain

どうですか? 「料理音痴でもこの本は十二分に楽しめる」と書いた理由が少しは伝わりましたかね?

当然、本山さんの狙いは読者自身が作って世界の味を体験すること。五感を使って世界の食文化に触れること。だから食材だってどこのスーパーでも手軽に買える顔ぶれになっています。

f:id:emi13_farout:20210709193500j:plain

そんなこんなで、この外出自粛期間を好機とばかりに、ご自宅の台所から味の世界旅行へ出掛けてみてはいかがでしょうか。てゆうか、これを書いていて、自分で自分が情けなくなりました。

手始めに私も、15分で完成するらしいタジキスタンシシッテタハ・シェジャカロとか、テキトーに作っても美味しく仕上がるらしいアルジェリアシッテタハ・シェジあたりからトライするかな。

※同ページに掲載した画像はライツ社のHPからDLしています。ライツ社ではブログやSNS掲載用にフリー素材を提供中。本当にありがたいです。

note.wrl.co.jp

 

【お知らせ】東南アジアで買い付けてきたアイテムを販売中。春夏は水着やリゾート服を中心に、秋冬はアクセサリーを中心にラインナップしています。ぜひチェックしてみてください。

farout.theshop.jp

 

ランキング参加中。↓をぽちっとしていただけたら嬉しいです。

にほんブログ村 旅行ブログへ
にほんブログ村