FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

現在は旅の記事をお休みし、旅関連の本を紹介する読書ブログに切り替えています。

小林紀晴『ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ 1』|読書旅vol.8

いまこの『ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ 1』を前にして、「どういうふうに紹介しようかな……」とちょっぴり悩んでいます。安心感とか、やるせなさとか、いろいろな感情がないまぜになり、読んだ後は毎度しばらくボーッとしてしまう1冊。

好きな書籍だからイイ感じに取り上げたいと思いつつも、悩もうが悩むまいが私の語彙力で書ける感想文なんてたかが知れているので、とりあえず着地点がわからないまま第8回目の読書旅を始めましょうか。

 

アジアを旅する日本人

1995年情報センター出版局より刊行され、2004年に新潮社から文庫化された『ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ 1』。〈1〉とあるように、翌96年には〈2〉が、2000年にはシリーズ最終巻の〈3〉が発表されています。

本作の著者で写真家の小林紀晴さんは、1968年に長野で生まれ、東京工芸大学短期大学部写真技術科を卒業後にカメラマンとして日刊工業新聞社へ就職。やがて自分の仕事に疑問を抱きはじめ、23歳の夏に会社を辞めて約100日間のアジア旅行へ。

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その道中で出会った日本人の長期旅行者を生々しい写真と文章で切り取ったのが、彼のデビュー作『ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ 1』です。

いまでは何冊も本を出され、個展もたくさん開かれ、母校で教鞭を執っている小林さんも、当時はまったく無名のフォトグラファー

旅で撮った写真を発表する場すら決まっておらず、あとがきには「本書はたった一度だけのつもりで生まれて初めて長い文章を書いたもの」と綴られていました。

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心なしか2作目以降よりも文章は武骨で、それゆえに率直な印象を受けますし、著者自体が仕事を辞めて何者でもない状態だったからこそ、旅人も心を許したのだろうと。上からでも下からでもなく、同じくらいの目線の高さが心地良いです。

もしこれが立場の異なる野心剥き出しのジャーナリスト目線で作られた本だったら、まったく違う雰囲気に仕上がっていたに違いありません。

 

訳アリな人々の旅模様

本文に登場する旅人は、日本の社会に上手く溶け込めないちょっと訳アリな方々です。著者と同じく脱サラした人。仕事どころか家族まで捨て、異国の安宿街に身を潜める人。そもそも定職に就いた経験がない人。将来に自信が持てず、就職内定を蹴って休学した人。

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〈読書旅vol.6〉で取り上げた『僕らの人生を変えた世界一周』にも脱サラ組や休学組はいましたが、「旅に出て人生がどう好転したか?」なるお題のもと世界一周旅の成功例のみをズラリと並べ、旅の素晴らしさを伝えてくれるキラキラ系の『僕らの人生を変えた世界一周』に対し、『ASIAN JAPANESE』には〈旅が人生を豊かにする〉とか〈旅サイコー!〉といった陽気なムードが希薄。全体的にドロリとした重たい〈何か〉が張り付いています。

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旅のやり方もさまざまで、ネパールとインドをひらすら行き来する人もいれば、〈苦行〉と表してアジア各地を自転車で巡る人、はたまた同じ場所に数か月ずつ滞在しては移動する人も……。

そんな旅人たちを待ち構えているのはハッピーエンドバッドエンドか、何が正しくて何が正しくないのか、幸せって何か――答えは宙に浮いたまま。

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しかし、一瞬こちらを振り返り、街の雑踏へそのまま消えて去ってしまいそうな表紙写真の女性を眺めていたら、すべてがちっぽけな問題に思えてきました。

そして、旅人たちのその後が描かれた本著の後半。そこで紹介されているのも、やはりさまざまな人生模様です。ある人は家庭を持ち、ある人は新しい目標を見つけて再起し、ある人は新たな葛藤にぶつかり、ある人はやっぱり現代社会と馴染めずにお金を貯めては長い旅に出る日々を続け、またある人はみずから命を絶ち……。

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良いとか悪いとかじゃなく、ただただこれもまた現実という話。私は昔から季節労働型のバックパッカーに仄かな憧れを抱いてきました。だけど、それを実践しているある男性は、本著の中で自分の旅行スタイルを〈うっとうしい旅〉とばっさり。

旅とは戻る場所があってのものであり、その戻る場所に馴染めず結局旅を繰り返すって、実は結構しんどいことなのかもな~、とか。

 

大義名分がなきゃダメなの?

さて、久しぶりに読み返して、いままでになく『ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ 1』が自分に刺さったんですよ。ブログのプロフィール欄にも書いてある通り、ずっと東南アジア移住を夢見てきた私。コロナが落ち着いた頃合いを見て、ツレとそのプランを実行に移すつもりです。

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で、若干先走って2年前に仕事を辞めた時、会う人会う人から「向こうで何がしたいの?」と訊かれ、そのたびに私ははっきりと答えられなかったんですよね。何をやりたいかより、どこに住みたいかで頭の中はいっぱい。

それを伝えると、大概の人は「大丈夫かよ。あまりにも考えが甘くないか?」的な反応を暗に示してきました。

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確かに周りの海外在住者は、〈これを学びたい〉とか、〈この会社で働きたい〉とか、〈恵まれない環境で暮らす子どもたちに教育の機会を与えたい〉とか、〈赴任が決まった旦那さんを現地でちゃんとサポートしたい〉とか、各々に立派な目的があるんですよ。

それと比べて私はどうか。いくら〈他人は他人、自分は自分〉と言い聞かせても、〈大義名分がなきゃダメなのかしら?〉ってふと考えてしまったんです。後付けでやりたいことはそれっぽく言えるけど、どうもしっくりこない……みたいな。

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そういう自分の心持ちも相俟って、「旅そのものに意味があるとは思えない。旅を楽しめばそれでいいのでは?」という本書の一節がやけに胸に響きました。

旅をするのと暮らすのは違うって? だとしても、人生に置き換えたら意外と真理を突いている気がして。少なくとも私はこの言葉で気持ちが楽になりました。

 

『ASIAN JAPANESE』は旅の本であると同時に、ヒューマンド・キュメンタリー色の濃いシリーズ。やっぱり〈1〉のインパクトが強烈ながら、どこから読みはじめてもOK。コロナ禍でウズウズしているバックパッカーの方はもちろん、いまの社会に息苦しさや所在なさを感じている人にもぜひ読んでいただきたい本です。

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力いっぱい背中を押してくれるような、わかりやすく励ましてくれるタイプの読み物ではないものの、読後はそっと背中をさすってもらった感覚になるはず。

モヤモヤしたままでもいいし、時には逃げ出してもいいし、意味があってもなくてもいいし、流れに身を任せてもいいし、抗ってもいい――要は「何でもいいのかな」って、いまの私はこう都合良く本書のメッセージを受け取っています。

※記事内の写真はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

 

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