FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

現在は旅の記事をお休みし、旅関連の本を紹介する読書ブログに切り替えています。

宮田珠己『旅の理不尽 アジア悶絶篇』|読書旅vol.66

引き続きアジア旅エッセイです。前回ご紹介したマミヤ狂四郎さんの『アジア裏世界遺産 とんでもスポットと人を巡る28の旅』は、著者みずから率先してトラブルに巻き込まれようとするフシがあり、一般の旅行者にはなかなか体験できないエピソードだらけでした。

一方、今回取り上げる宮田珠己さんの『旅の理不尽 アジア悶絶篇』(1995年)には、アジアを旅する人の多くが経験してきたであろう、ありがちなハプニングが並んでいます。

出だしからこんなふうに書くと〈凡庸な作品なのでは?〉と思われてしまうかもしれませんが、凡庸なエピソードを非凡な作品に仕上げてしまう点が宮田さんの凄いところ。マジでこの人、どうかしています。

 

自費出版から2度の再文庫化

当ブログで宮田珠己さんの作品をピックアップするのは意外にもこれが初。もともとサラリーマンだった宮田さんは、上司の顔色を見て見ぬふりして有給休暇を使い倒し、アジアを周遊。その時の様子が『旅の理不尽』の中でまとめられています。

当初、本作は自費出版でお目見えしました。それを雑誌『旅行人』の蔵前仁一編集長に送ったことがきっかけで、同誌での連載枠をゲット。

その後、『旅の理不尽』は1998年に小学館より文庫化され、さらに2010年に筑摩書房より再文庫化。言わずもがな、どちらも大手出版社です。

経年と共にどうしても情報価値の下がる旅エッセイが、初版から15年後に再文庫化されるって、かなりのレアケースなんじゃないでしょうか。

しかも始まりは自費出版ですからね。情報的/資料的価値はさほどなくても(スミマセン)、読み物として優れているからこその大快挙だと思います。

なお、宮田さんは早々に脱サラし、文筆家として再出発。瞬く間に人気旅行エッセイストの仲間入りを果したのでした。

しかし、著書が増えていくごとに、旅のみならず、ジェットコースター、巨大仏、ベトナムの盆栽、変なカタチの海の生き物などなど、作品のテーマは多方面、かつ、どんどんニッチなほうへと向かい、ファンは困惑。まったくもって掴みどころがありません。

 

結局は何も言っていない

『旅の理不尽』の魅力をどう伝えていいかわからなかったため、とりあえず各章の書き出しをいくつか引用してみました。

“昔、一文字隼人はブラジルに飛んだが、私は五年前トルコへ飛んだ。ここで一文字隼人と私の関係については、残念ながら極秘事項であり、触れるわけにはいかないが、私は二月のある日イスタンブール空港に到着した”

“十年前、私は中国へ行った。初めての海外旅行だった。当時まだあまり注目されていなかった中国を選んだのはなぜか、と思う人がいるかもしれない。それについて、ここで話せない理由は特別ないのだが、今は香港返還問題が微妙な時期であるだけに、いたずらに刺激しないよう、ここでは触れないでおく。いずれ明るく語られるときがくるだろう”

スリランカはインド洋の涙である。おおっ、なかなか叙情的な始まりである。感動あふれるラストシーンの予感さえする。さすがである。島の形が、涙なのである。糞のようでもあるが、そこを涙と詠んだわけである。糞とはいわず、涙といったところが、ワビというかサビというか情緒というか、もうわかったから早く先へいってほしいとみんな思っているのである”

ネパール第二の都市(村だけど)ポカラはとてもいい所だ。首都カトマンズからは見えないヒマラヤ群が目の前にそびえていて、朝の冷たい空気の中でモルゲンロートを眺めるのは最高のぜいたくだ。知らない人のために説明すると、モルゲンロートとは、〈モルゲン〉がドイツ語で朝のことなので、朝ロートのことである。ロートはどうした、という問題は残るが、今日はこのへんにしておく”

文字数を割いているわりに、結局は何も言っていないのである……と、うっかり宮田さんの文体につられてしまいつつ、こんな調子で始まる全16章

イスタンブールでぼったくりに遭いかけただの(※遭いかけただけで被害はゼロ)、スリランカ募金詐欺に騙されただの(※今度は日本円で約600円前後の損失)、エベレストを近くで見ようとヒマラヤ周辺の比較的低めな山に登ったら息が苦しくなっただの(※高山病にはなっていない)、嬉々として死海に飛び込むも肛門に塩水が沁みて即退散しただの(※ん?)。

控えめに言っても、本当に大したことは書いていません(たびたびスミマセン)。よくぞこの小ネタをここまで引っ張ったなといった感じ。読後に味わうしてやられた感がハンパないです。

 

若さゆえの無敵感

再文庫版のあとがきに、〈あらためて読み直したところ、実に恥ずかしかった〉と書かれている宮田さん。続けて……。

ちくま文庫から、収録にあたって、直す部分、付け足すことなどはないか確認されたが、ことここに至ってはもはや修復は不可能というか、アホは治らないというか取り返しがつかないというか、今さら手の施しようがなかったというのが正直なところである。なので、ほぼそのまんま出してしまうことにした。さらにはっきり言うならば、直すのが面倒くさかった。あとは野となれ山となれ”

そうは言っても、宮田珠己スタイルのひな型はすでに『旅の理不尽』で確立。『晴れた日は巨大仏を見に』(2004年)にしたって、それぞれの大仏の歴史的背景にはほとんど触れていなかった気がしますし、海の生き物についても生態を深掘りせず、『いい感じの石ころを拾いに』に至っては〈だから何?〉って具合。

見たまま、感じたままの風景をただただ本の中で広げていく宮田さんの作品に対し、結論答えを求めるのはナンセンスです。

脱力系エッセイストとはよく言ったもので、宮田さんの文章は良い意味で能天気。私が知る限り、政治や社会問題に対して自身の意見を声高に主張することもありません。

その能天気さは据え置きで、プラス若さゆえの根拠なき謎の無敵感も備えた『旅の理不尽』には、以降の著書にない味わいがあると思っています。

ひたすら笑わせてくれて、読んでいるそばから、悩んだり、イライラしたりするのがバカらしくなってくる一冊。この本、私は大好きです。

ことのついでに、蔵前さんによる再文庫版の解説の一部も、以下に抜粋させていただきました。

“久しぶりに読み返すと、またげらげら笑い転げてしまったが、むしろ問題なのは、以前に読んだのにほとんど忘れてしまっている僕の記憶力のほうだ”

蔵前さん、たぶんそれは違います。問題なのは蔵前さんの記憶力ではなく、この作品のせい。〈大好きです〉とか書いておいて、実は私も内容なんてほとんど忘れ、げらげら笑い転げてしまいました。自分でもバカじゃないかと思うほど。

何度読んでも初見に近い感覚で楽しめる――『旅の理不尽』はそういう作品です。もちろん褒めてます。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

www.chikumashobo.co.jp

 

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