FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

西川治『世界ぐるっとほろ酔い紀行』|読書旅vol.85

世界のいたる所に美酒がある。フランスのさまざまな葡萄酒にしても、またスペインのシェリー、ロシアのウォッカ、中国のマオタイ、ペルーのピスコ、ブラジルのピンガ……かつて訪れた土地土地の思い出は、懐かしい酒の味わいと香りをともなってよみがえって来る。

だから私はどこでも、まずその土地の酒を飲み、名物料理を食べる。それぞれに芳醇で独特な味。そのときこそ、なまなましく、そこの世界と抱きあうような嬉しさを覚える。

上記は前回ピックアップした岡本太郎さんの『美の世界旅行』の中に出てくる一節(※詳しくはこちら)。この箇所を読んで私は一冊の本を思い出しました。それが本稿の主役である『世界ぐるっとほろ酔い紀行』(2010年/新潮社)です。

 

生粋の酒飲みによる旅エッセイ

フォトグラファーであり、料理研究家/エッセイストでもある著者の西川治さんは、筋金入りの大酒飲み。4歳の頃にウィスキーボンボンを爆食いして病院に担ぎ込まれた彼は、小学4年生で正月のお屠蘇を美味しいと感じて以来、自宅で盗み飲みを繰り返すようになり、中学時代には棟上げの祝いの席に顔を出しはじめます(ご実家は製材業を経営)。

さらに、高校生になると月1~2回ほど一升瓶を手元に友達とすき焼きパーティーを開催し、大学時代はロクに学校へも行かず2日酔いを迎え酒で軽減させる毎日。

写真家になってもそうした日々を過ごし、海外へ行き出してからはよりいっそう飲酒量が増加。「悪い女にひっかかったように夢中になった」とは本人の弁です。

(ヨットの撮影で訪れた)半年のオーストラリアでの滞在のあとで残った金は、すぐに底をついてしまった。そうなるとカメラ、レンズを売り払った。カメラマンがカメラやレンズを売りとばすのは、武士が刀を手放すのと変わらない。

(中略)数年して猫の写真集「マミネット」がベストセラーになり、半年間ヨーロッパを巡った。印税で入った金もなくなりすってんてんになった。そこでワインの味を知った。

やっと金が懐に多少たまると、じっとしていられず、すぐに外国へ出掛けた。

酒好き/旅好きもここまでくれば立派なもの(?)。同じく私も海外旅行お酒に目がないとはいえ、妙に打算的で即ストッパーをかけてしまうタチなので、すってんてん状態に陥れる西川さんタイプの人が、ちょっと羨ましくもあります。

 

高級店から場末の大衆酒場まで

さて、スコール、スロンチェ、チアーズ、サルーテ、アラックなど、各国の乾杯の掛け声と共にスタートする本書は、西川さんが旨い酒旨い肴を求めて約40年に渡り世界を放浪した、壮大な旅の記録です。

ヴェニスではヘミングウェイチャーチル首相も愛したハリーズバーのドライマティーニに舌鼓。

リスボンではファドをつまみに年代物のポルトを嘗め(西川さんは中学生の頃にアマリア・ロドリゲスの歌に魅せられたとか。味覚だけじゃなく耳も早熟!)、テキサスでは西部劇さながらにカウンターからシュッと滑ってくるバーボンをキャッチし、駆けつけ3杯ならぬ駆けつけ6杯。

はたまた、ホーチミンの屋台で隣客が持参していたお手製の濁酒(使い古されたペットボトル入り)をお裾分けしてもらったり、バリの棚田で虫入りのトゥアック(アラックを蒸留する前の椰子酒)をローカルと酌み交わしたり。

ホーチミンやバリ島で飲んだシロモノは間違いなく密造酒で、しかも衛生的にかなりヤバそう。それを躊躇なく口に入れるって、なかなかできませんよ。

そんなこんなで、旺盛すぎる好奇心を丸出しに、訪れた土地でやりたいことを次々と行動に移していきます。

 

美味い酒にウンチクは不要

高級店でも大衆酒場でも道端でも、変わらず真っ直ぐに己のアルコール欲を満たしていく姿勢に加え、もう1つ、お酒について知識で語ろうとしない点にも物凄く好感を持ちました。

ミラノに住んでいた頃、ワインの知識を得るためにしっかりラベルを読んで年代や産地をノートに書き移そうと決めるも、ついつい億劫になってしまったらしく、結果、西川さんは以下の境地へと辿り着きます。

ヴィーノを楽しむのに、よけいな知識などいらないとも思ってしまう。知識の習得の必要性を感じてはいるが、本当は舌や体が覚えていればそれで十分なのではないか。

(中略)こんな飲み方ではいけないいけないと思いつつ、どうしても知識は増えなかった。ついに今では、ワインに関する知識の収集は放棄してしまっている。

ダラダラと理屈を並べるのではなく、どんな味なのか感覚的かつストレートな言葉で伝えてくれるせいか、飲んだことのないお酒でも何となくイメージでき、ページをめくるたびにこちらは思わず舌なめずり

おそらく同志の皆さんがこれを読んだら、昼夜関係なくアルコールを欲してしまうはずです。酒飲みには危険な誘惑の多い作品につき、くれぐれもご注意ください。

 

秋の夜長に……

もっとも、下戸の方にはまったく響かない本かと言うと、さにあらず。例えば、学生の頃に付き合っていた女性とニュージーランドで再会した日の回想シーン。

レストランに入っていざ向かい合ってもトークは弾まず、しばらくの沈黙を破って彼女から婚約した旨を打ち明けられます。その後は当たり障りのない会話をし、最後に握手をして別れた2人。

そして、1人になった著者はどうしてもホテルへ直帰する気になれず、恋人に振られたような悲しみを抱きながら、わざと最終バスに乗り遅れ、ふらっと1件のパブに入るのでした……とかね。こういうドラマ顔負けのエピソードが要所で挿入され、それがいちいちセクシーなんですよ。

ちなみに、西川さんの著書の中で『世界ぐるっと朝食紀行』も私は好きなのですが、秋に読むなら断然『ほろ酔い紀行』がオススメです。

〈肴ありて酒〉をモットーとする西川さんは、常に酒と肴の2つをセットに考え、『酒ありて肴 肴ありて酒』なるレシピ本も出されているほど。

当然、『ほろ酔い紀行』も酒に合うご当地料理がわんさか登場し、食欲の秋的な意味でこの季節にピッタリというのもありつつ、年がら年中、食欲旺盛な私としては、それ以上に、行間からほんのり漂う哀愁が秋特有のセンチメンタルな気分にフィットするかな~と思ってみたりしています。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

 

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