死と表裏一体にある生の美しさを教えてくれた星野道夫さんの『旅をする木』、戦争の理不尽さを普通の人々の目線で伝えていく池澤夏樹さんの『イラクの小さな橋を渡って』、ガムシャラにがんばる姿がいかにカッコイイか身をもって示した白石康次郎さんの『七つの海を越えて: 史上最年少ヨット単独無寄港世界一周』――。
直近3回で取り上げた書籍は、それぞれにヴェクトルは違えども、ぜひ10代の若人にも読んでほしい作品でした。宿題の定番である読書感想文や受験の小論文・面接ネタにもピッタリです。
その反動からか、今回は『マリファナ青春旅行〈上〉アジア・中近東編』(幻冬舎アウトロー文庫)を読み返してみました。内容はタイトルまんま。現行の法律が変わらない限り、どう転んでも推薦図書にはならなそうな本です。
ちなみに、私は嗜みません。当ブログでもカンボジアやタイの草事情を投稿しつつ(※詳しくはこちら)、決して推奨はしていません。だからといって、愛煙家の方々を否定もしていません。その微妙なスタンスを最初にお伝えしておきます。
トリップするための旅
著者の麻枝光一さん(本名:前田耕一さん)は、1993年に大阪で大麻堂の1号店をオープンし、1990年代後半にNPO法人医療大麻を考える会を立ち上げた人物。Wikipediaには実業家/社会活動家と書かれていました。
なお、大麻堂と言っても別に大麻そのものを売っているわけではあらず。リーフ・デザインのアパレル・グッズや麻繊維製品、喫煙具がズラリと並び、私も下北沢店にはプレゼント探しなどでたびたび訪れています。
とにもかくにも、長きに渡って大麻取締法撤廃を訴えてきた麻枝さん。1991年作『マリファナ・トリップ 世界33ヶ国ドラッグ体験旅行』を上下巻に分けて文庫化し、重版を繰り返している『マリファナ青春旅行』もまた、大麻への理解を促すのにひと役もふた役も買った作品として、麻枝さんの活動を語る際には欠かせない存在と言えるでしょう。
麻枝さんが大麻デビューを飾った韓国を出発地点に、アフリカ大陸の玄関口にあたるエジプトまでの15か国――『マリファナ青春旅行〈上〉アジア・中近東編』を読むと、大麻が何なのか、アジア・中近東の国や地域ではどのように親しまれてきたのか、ひと通りの知識を得られます。
何を隠そう、麻枝さんは元教師。教え方が抜群に上手で、時には客観的に、時には主観的に、歴史から効能、キマり方で、マリファナ講義を展開していきます。
例えば、アルコールを厳しく禁止してきたイスラム圏で、マリファナがわりと大目に見られている理由について。高温低湿な環境で飲酒するのはかなり危険。体温の上昇と脱水症状を促進するアルコールの摂取は、こと砂漠地帯において自殺行為らしいです。
一方、ロシアを筆頭とする寒い地域には強いお酒がよく似合います。かのスピリタスを生んだポーランドだって、冬の寒さは厳しいイメージですもんね。
本書を読む以前は、アルコール文化圏とマリファナ文化圏を気候の違いから線引きして考えたことなんて一度もありませんでしたし、〈なぜイスラム教は酒を悪とみなしているんだろう?〉という疑問に対しても、〈そうか、アラビア生まれのイスラム教は信者の命を守るために酒を禁じてきたのかも〉と、物凄く腹落ちする答えを私に与えてくれました。
そういう目的の旅が良いか悪いかは別として、麻枝さん流の大麻を介したコミュニケーションを通じ、各地の新しい一面、いままで気付かなった一面が見えてくる点は、この本の大きな魅力だと思います。
また、『マリファナ青春旅行』では、大麻のみならず、ヘロインやコカインをはじめ、旅先でさまざまなブツを試した様子もレポートされています。
決して褒められた行動ではないかもしれませんが、いろいろ試した上で大麻の良さや安全性をアピールする著者のやり方は、とても説得力があるように感じました。
議論する余地はあるのでは?
本書が出てから30年が経った現在、世界中がグリーンラッシュに沸いているのは周知の事実。北米・中南米は言うに及ばず、欧州各国も大麻先進国のオランダに追随する動きを見せはじめ、アフリカ諸国では医療用大麻が合法化され、比較的厳しいとされてきた東南アジアでも、タイが約1年前に解禁し……といった具合です。
間違いなくCO2削減の風潮も追い風になっているのでしょう(※ヘンプは二酸化炭素の吸収力が高く、地球温暖化防止に役立つと言われています)。
そうした世界の動きを横目に、日本ではいまだに大麻=悪とされています。〈幻覚作用を懸念するのなら酒はどうなの?〉とか、〈依存性ならタバコもヤバイよね〉って思いますし、ゲートウェイ・ドラッグ論争に至っては〈大麻自体が悪いものでないとすると、濡れ衣を着せられて不憫だな〉とも感じます。現に医療用で使われているくらいですから、100%身体に毒とはどうしても考え難いんですよね。
言わずもがな、日本で大麻が禁止されたのは、アメリカに占領されて以降です。神道を一例に、元来、日本文化と麻は密接な関係にあるものでした。
日本が主権回復後もGHQの命令に従ってきた理由を、いまさら問いただしても仕方ないとは思うものの、カリフォルニア州の全面解禁を皮切りにバイデン政権が連邦レベルで合法化するのではないかと噂されるなか、いつまでもアメリカの言いつけを守り続けているのは腑に落ちません。
納得のいく理由もなく、大麻が悪者に仕立てられているのはいかがなものか。それにコロナ禍で税収が落ち込み、国の出費が増えているいまこそ、酒やタバコと同じく法律で認めて税金を課せばいいのに……とさえ思っています。
ご参考までに、現時点での最新データにあたる2020年の数字を見たところ、大麻の検挙数は4年連続で過去最多を更新し続け、特に20代以下の若者の数が急増、ついには全体の半数を占めるまでに。これは由々しき事態。麻枝さんは本編でこう綴られています。
日本でもマリファナを吸う若い人たちのなかには、自分は反社会的行為をしているのだとか、他の奴らとは違うのだとか、マリファナを吸うことが何か偉いことでもあるかのような錯覚を持っている者が多い。しかし、そういう連中はすぐに捕まる。マリファナを吸っていることを無意識のうちに誇示したがるからで、そのしっぽをつかまれるのだ。捕まる奴らのうち半分は捕まりたがっている。ちょっと極端な言い方かもしれないが、僕にはそう見える。
その通り。ファッションで吸っている人や、何かしらのアティチュードを示すために吸っている人は一定数いて、不慣れな人ほどトラブルに遭いやすいはずです。ならば、隠れてコソコソやらせるより、規定を作って、しっかりとその道の達人に作法をレクチャーしてもらったほうが良いのではないか、っていうのが私の意見。
合法のお酒も一歩間違えたら、とんでもない事態を引き起こしますからね。酒だろうが、大麻だろうが、要は付き合い方の問題な気がします。
……って、こういう話を書くと、私が大麻推奨派の人間に見えてしまうかもしれませんが、もちろん現段階ではダメですよ。ルールはルールです。
さらに、仮に合法化したとしても、このまま大麻取締法が残ったとしても、正直、自分はどっちでもいいです(※厳密に書くと、医療用の解禁は大賛成、嗜好用はどっちでもいいです)。とはいえ、ちゃんと議論はしてほしいし、ダメならダメなりの理に適った説明が聞きたいな~と感じました。
まあ、放っておいても議論は進んでいくでしょう。そんな状況も相俟って、よりいっそう『マリファナ青春旅行』が考えるタネになってくれる気がしています。
※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。
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