FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

藤井伸二『タイからはじめるバックパッカー入門』|読書旅vol.96

前回の投稿に書いた通り、家庭の事情でしばらく旅行はお休み。旅へ行けない期間は読書ブログを復活させます。

今回選んだのは藤井伸二さんの『タイからはじめるバックパッカー入門』(2021年/光文社知恵の森文庫)。私にとってこれが藤井さんに触れる初めての本です。

略歴を見てみると、タイを中心にヴェトナムやラオス他、アジア関連の書籍を多数執筆。東南アジア移住のハウトゥー本も書かれていて、これを機にいろいろチェックしたいと思っています。

 

バックパッカーになるための指南書

『タイからはじめるバックパッカー入門』はコロナ渦中に刊行された文庫書下ろしの作品。内容はタイトルそのまま、バックパッカーになるための指南書です。

パンデミックによる渡航制限下で藤井さんが本書を出した狙いは、“遠くない未来にふたたび国境は開くはずだから、いまのうちに準備しておこう”というもの。

バックパック旅の起点になぜタイが相応しいのか?”に始まり、出国に向けた準備、タイ到着日~翌日にすべきこと、国境越えのルート見本などなど、旅人が抱えがちな不安疑問を1つ1つ解消してくれる構成になっています。

とりわけ“タイ現地での生活費は1日の宿泊費分を目安にする”とのアドヴァイスが目から鱗でした。確かに宿のランクによって、どんな店で食事するか、どんな手段で移動するか、ざっくり傾向が分かれそう。

ためしに直近のバンコクでの出費を確認したところ、あれこれ爆買いした日を除き、だいたい宿泊費を少し下回る金額でした。

 

そもそもバックパッカーって何?

この本の一部を抜き出したら、情報の鮮度とはまったく違うポイントでやや前時代的な印象を抱かなくもないです。

元も子もない言い方をしてしまうと、「オッサンが昔を懐かしんで何か言ってるわ……」みたいな。在りし日のカオサンヤワラーに思いを馳せ、現在の様子を残念がっているあたりは、その最たる例。

また、随所でパッケージ・ツアーを見下したり、そもそもバックパッカーってバックパックを担いで旅する人程度の意味でしかないのに、自由だ何だと、そこに謎の浪漫を持たせる表現も気になりました。

私自身もバックパックを背負って旅しています。しかし、バスターミナルや船着場からツレとバイク2ケツして宿へ向かうのにスーツケースじゃ無理とか、そういう事情がなければ迷わずコロコロ派に転身したいです。

荷物は重いかもしれない。しかし僕たちバックパッカーは、これを喜びと感じなければならない。すべてを背負ってどこへでも行ける、この得たばかりの自由を満喫しなければならない。

背中の重さは自由の証明だ。これさえあれば、僕らはどこにでも行くことができる。世界のどこに行っても、荷物を広げればそこが自分の部屋だ。

“感じなければならない”“満喫しなければならない”と言われても困惑しちゃいます。少なくとも私は荷物の重さ=喜びだとは微塵も思いません。

……って、何も『タイからはじめるバックパッカー入門』のネガティヴ・レヴューを書きたいんじゃないんです。むしろこの種のオッサン特有の暑苦しさ(失礼!)が本書の魅力だとも感じています。

X(旧Twitter)を筆頭とした炎上狙いのSNSを除くと、強めの口調/文体で物事を断言するより、言葉に含みを持たせて相手に解釈を委ねる(≒余白逃げ道のある)言い回しのほうが、日常生活で触れる機会は増えていると思うんです。

かく言う私も、まさにいま語尾を〈思うんです〉と濁すことで断定を避けました。もちろん、言い切らないのも日本語の美しさではありつつ、こういうコンプライアンス過剰な現代だからこそ、藤井さんの自信漲る文章が逆に新鮮。

加えて、ノンカイラオスと国境を交える県)での朝について綴られたプロローグや、スラータニー(タイ南部の県)での夜について綴られたエピローグを筆頭に、要所でポエティックな紀行文が挿入され、単なる実用書では終始せずに読み物として楽しませてくれるのも良いです。

結果、藤井さんは本当にバックパックを背負って旅するのが好きなんだな~と感じ、旅って素晴らしいな~としみじみ思いました。

 

自分の想いを届ける文章

最後に、私は「旅行できない間に旅勘を鈍らせないようにしなきゃ」的な動機で本著を手にしたわけじゃありません。「この作家さんはどうやって読者に訪タイのおもしろさを伝えているんだろう?」といった部分に興味が湧きました。

私とツレがECサイトでビーチウェアやら何やらを売っているのだって、ゆくゆくはゲストハウスの開業をめざしているのだって、ブログを続けているのだって、すべて旅のおもしろさを1人でも多くの人に伝えたい気持ちが根っこにあります。

で、『タイからはじめるバックパッカー入門』で得た学びは、好きなものは胸を張って好きだと伝える大切さ。「これは自分の思い込みなんじゃないか?」「情報が偏っているんじゃないか?」と気にするあまり、弱腰になって回りくどい文章を書いていたのでは、受け手に想いなんて届きません。

相手の胸にガツンと響くのは、やっぱりその人から出てくる熱量たっぷりで嘘偽りのない言葉だと、藤井さんの言い切りスタイル原稿に教えられた次第です。

※記事内の画像は私が撮影したものです。本著と直接的な関係はありません。

www.kobunsha.com

 

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