FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

下川裕治『週末バンコクでちょっと脱力』|読書旅vol.2

2回目の読書記事。舞台は同ブログとも縁の深いバンコクにしようと思い、下川裕治さんの『週末バンコクでちょっと脱力』(2013年/朝日文庫)をピックアップしてみました。

 

猛スピードで近代化が進むバンコク

下川裕治さんと言えばアジアに強い旅行作家。週末シリーズだけを並べても、このバンコクの他に、台湾編、ベトナム編、沖縄編、香港・マレーシア編、ソウル編、シンガポール・マレーシア編が出ています。

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なかでもタイは下川さんの十八番。タイ語を学びにバンコク留学した1980年代以降タイと日本を幾度となく行き来し(時には現地に生活拠点を置き)、庶民目線からタイの魅力を我々日本人にレポート。

いくつか拝読した中でも、特に私はレディーボーイにスポットを当てた『オカマのプーさん』(2000年)のインパクトが強烈でした。

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ちなみに、昨年にはYouTubeチャンネル『下川裕治のアジアチャンネル』を開設。PCR検査や機内の様子、ホテル隔離の実態、閑散とした色町ナナや水かけなしのソンクラーンなどなど、コロナ禍中の異常な状況も体当たりで取材されています。

こういうコンテンツは本当にありがたい限りです。

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さて、下川さんにとって『週末バンコクでちょっと脱力』は2003年発行の『バンコク迷走』以来10年ぶりとなるバンコクを題材にした書籍。

その間もバンコクには頻繁に通っていたものの、バンコク本を出さなかった理由について「この街について行けなかった自分のせい」とご本人は語られています。

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高度成長を続けるなか、バンコクをテーマにした書籍の主流はオシャレなタイ料理やオーガニック・スパ、タイ雑貨を扱う女子旅向けキラキラ系。30年以上に渡ってバックパッカーを続けてきた下川さんのスタイルとは相容れないものでした。

『週末バンコクでちょっと脱力』が執筆された当時は、経済成長のスピードが少しダウンしはじめたタイミング。2013年には後に軍事クーデターを引き起こすこととなる反政府デモも起こっています。

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7~8年前と考えると、変化の著しいバンコクにおいては遠い昔の出来事に思えますが、黄色いアヒルをシンボルにした昨年の大規模デモを一例に、タイ経済が停滞気味な昨今、何となく時代が1周して本書が出た頃のムードに戻ってきている気も?

というか、コロナによる未曾有の危機に立ち向かっている状態ですからね。比べること自体がナンセンスですけど、いずれにせよ2021年に見返しても古さを感じさせず、案外しっくりきたのが『週末バンコクでちょっと脱力』読後の感想でした。

 

バンコクはいい加減で矛盾だらけ

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この本の魅力は、めまぐるしい政治情勢を踏まえつつ、変化しているようで実はそれほどに変わっていないタイの性質が、バンコク通な下川さんの視点で活き活きと綴られていること。

120%の愛情を込めて、バンコクいい加減矛盾だらけしょうもない街です。本著を読んで、それを改めて思い出しました。

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ぼったくり空港タクシーの非効率なシステムとか(本気でぼったくりたいなら、もうちょっと賢く確実にやればいいのに……つくづくタイ人は詰めが甘い!)、本来は飲酒禁止な戒律を巧みに掻い潜って都合良く大義名分を守っていく様とか、大企業と外国人には厳しくローカルの個人商店には優しい税制の建前と本音とか、タイトルに反して脱力度合は〈ちょっと〉どころの騒ぎじゃありません。

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日本の常識ではまず考えられないタイあるあるを、下川さんと一緒に――時には運河タクシーに乗りながら、時にはゆるゆるの市民マラソンに参加しながら、時には寺院で瞑想(お昼寝?)しながら、時にはサパンクワイの屋台でビールを飲みながら――再発見していく妄想旅。

排気ガスを纏ったナンプラーの発酵臭フルーツの甘い香りが行間から強烈に漂ってきて、読み進めるごとに疑似体験感覚は増すばかりです。

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挿画に添えられたキャプションも共感度が高く、高級デパートの写真には「隅々まで高級感が溢れ、歩いているだけで、ちょっとむかつく」とばっさり。嘘偽りない言葉はこんなにもスッと心に入ってくるものなんですね(笑)。

 

さまざまな角度から週末旅を提案

もう1つこの本の特長を挙げるならば、最終章でバンコク滞在者11名によるそれぞれの週末プランが提案されている点。

地元密着型の貧乏旅行に徹する下川さんに対し、11名の中にはオリエンタル・ホテルでのラグジュアリーな宿泊体験や、流行りのアグリツーリズムを推奨されている方もいて、その温度差が凄まじいです。

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正直なところ、私自身はサイアム周辺のスタイリッシュなムードや5つ星ホテルに囲まれたチャオプラヤーの高級感たっぷりな一画も嫌いじゃないですし、それらと都市開発の波に乗り遅れた下町のボロ屋群が生み出すアンバランスなコントラストに現代バンコクの面白味を感じているのも事実。

下川さんの名前を冠した本なのだから、徹頭徹尾下川裕治を貫いてもいいはずなのに……。そもそもこれだけ界隈では名のある方なのだから、そのように仕上げて然るべきなのに……。でもそれをしなかったあたりにバンコクを感じました。

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だって、いろいろな顔を持ち、十人十色の旅プランが組めるこの大都市を、一方向からだけでしか眺めないなんてもったいないですもん。

で、1冊を通してバンコクの懐深さに触れた後、再びエピローグに戻ってみると、「旅とは情報ではなく、想像力が生むもの」とした上で、「自分なりの週末バンコクを作ってほしい」という文言に目が留まりました。

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私だったらどんなプランを立てるかな。朝食はジョーク。買い物は午前中に済ませたいけど、コスメを攻めようか、古着を攻めようか。ランチはあっさりソムタムスワで、午後の熱い時間帯は木陰で昼寝。夕食はガッツリ屋台のチムチュム。もちろん氷入りのビールは欠かせない。そして2日目の朝は……。

こんな調子であれこれ想像しているうちに、「あ~、週末だけじゃ足りないよ」と無駄に焦り出し、妙なワクワク感でいま頭がいっぱいになっています。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

 

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