今年に入って投稿した記事をざっくり見返してみたら、わりと特殊なケースの旅本が多いことに気付きました。それどころか、旅ですらない書籍もちらほら。
そこで当ブログのコンセプトに立ち返り、もっと旅を身近に感じられるフツーの旅行エッセイを取り上げようと、『おかっぱちゃん旅に出る』(2009年/小学館)をピックアップしました。
世界を旅するイラストレーター
Eテレでアニメ化もされている『おかっぱちゃん旅に出る』の作者、Boojilさんは1984年に横浜で生まれたイラストレーター。〈ブージル〉と読むアーティスト名は、〈ブサイクな自分の絵をいじる〉を意味する造語らしいです。
Boojilさんのイラストは色彩豊かで異国情緒たっぷり。アジア各地に始まり、ヨーロッパ・アフリカ・北米・南米と世界中に赴いては、行く先々でインスピレーションをもらい、その刺激をダイレクトに作品へと投影させている様子が、↓の公式HPからも窺えるでしょう。
ちなみに、おおはた雄一さんやU-zhaanさんなどのCDジャケットを手掛けられたほか、ユニクロやURBAN RESEARCH、星野リゾートにアマノフーズをはじめ、さまざまな企業ともコラボしていて、仮にその名前に聞き覚えがなくとも、知らず知らずのうちに彼女の絵と触れている方は多いかと思います。
初めての女ひとり旅
いまでこそ旅慣れたオーラをプンプン漂わせているBoojilさんですが、最初から旅の達人だったわけではありません。ここでやっと本題。
今回ご紹介する『おかっぱちゃん旅に出る』は、Boojilさんにとって初めてのひとり旅をまとめたイラスト・エッセイです。
わたしはこれから旅に出る。ずっと憧れていたひとり旅に。お金持ちでもなく、貧しくもない一般家庭に生まれたどこにでもいそうな〈おかっぱちゃん〉。そう、それが私なのだ。
なお、海外へ行くのもこの時が2度目。初の海外は、当時付き合っていた彼氏(バックパッカー)とのタイ+カンボジア旅行でした。その恋人と別れてからも楽しかった旅の記憶は消えず、今度はひとり旅に挑戦します。
21日間に及ぶ旅程は、タイから陸路でラオスに渡り、ふたたびタイへ戻ってくるというもの。冒険はしたいけど、当然、不安もあったのでしょう。
見ず知らずの土地ではなく、まずは元カレと行ったバンコクのカオサンを目的地に選ぶ慎重さに、何だか物凄く共感してしまいました。
実を言うと、私は過去に一度もひとり旅をした経験がありません。理由は淋しいから。友達との旅行に1.5~2日前乗りするのが関の山。旅はおろか、日常生活においても極力ひとりでは外食しません。重症です。
ところが、つい2~3週間前。タイの銀行口座が凍結だか消滅するかも……といった、とんでもない話が舞い込んできました。凍結はまだしも消滅は困る。もはや淋しいなんて言っている場合ではありません。
コールセンターに何度か問い合わせてもすっきりせず、気持ち的には90%くらいひとり旅を覚悟。大急ぎで現地のワクチン・パスポート〈Mor Prom〉の申請方法や隔離施設、航空券などを調べた次第です。
幸いにも問題は解決し、私のひとり旅デビューはお預けとなりました。安堵した反面、心のどこかでがっかりしたのも本音です。
気掛かりな点はたくさんありましたよ。如何せんコロナ禍だし。だけど、いろいろリサーチしはじめた途端、〈行き慣れたバンコクなら平気じゃないか〉的な思いが込み上げてきました。
で、すっかりその気になり、〈久しぶりにあの店のあのメニューを食べたい!〉〈やっとタイ・コスメを買い足せる!〉〈せっかくだし、ついでに仕事もかねて買い付けしてくるか!〉と、妄想を膨らませていたのです(予定不調和を楽しむ旅のスタイルとは真逆な思考回路でお恥ずかしい……)。
私にもできるかな?
そうした個人的なタイミングに大きく影響されたのと、大好きなタイとラオスを舞台にしている本だったのとで、おかっぱちゃんの体験エピソードが他人事には思えませんでした。
搭乗時間を待つ間、わたしといったら落ち着きがない。ベンチに座ってガイドブックを読んでみても、まったく頭に入ってこない。完全に落ち着きがない。完全に動揺している。何を探しているわけでもなく、キョロキョロしては「落ち着け、落ち着け」と暗示をかける。
空港で客引きしているタクシー運転手が漏れなく怪しい人に見えたり、ゲストハウスで盛り上がる欧米人グループの会話に入れず孤独を噛み締めたり、ストリート・チルドレンを目の当たりにして心を痛めたり、個人ガイドを頼んだ青年に悪さされないかビクビクしたり、日本に置いてきた恋人を思って泣きたくなったり……。
女性のひとり旅にはつきまとって然るべき、これらのマイナスな感情を、素直な言葉で綴っていくBoojilさん。ひとり旅ができないコンプレックスを密かに抱え続けてきた私は、どうしても〈ひとり旅できる女性⇒自立心が強くてサバサバしている⇒自分とは違う系統の人たち〉という図式を頭に思い描きがちでした。
でも、おかっぱちゃんと私の大きな違いは行動を起こしたか否か。〈心配性で淋しがり屋のおかっぱちゃんだって1歩を踏み出せたんだから、私にもできるはず!〉と、この本に背中を猛烈プッシュされた気がします。
人とのふれあい
1日の出来事を1章ずつ短く区切り、出発日から帰国日まで、合計21日間分の絵日記を並べたような構成になっている『おかっぱちゃん旅に出る』。
バンコク→ビエンチャン→バンビエン→ルアンパバーン→ルアンナムター→チェンライ→チェンマイ→バンコクを駆け足で巡り、各地の観光スポットにも顔を出しつつ、名所紹介はほんのわずかです。
代わりに、文字数の大部分を道中で知り合った旅仲間やローカルの話に割いている点が印象的でした。
人とふれあうことが大好きで、誰にでもすぐついて行ってしまう姿に、〈大丈夫か?〉とツッコミたくなる一方、とことんフレンドリーで気の優しい彼女だから、周りにも親切な人がどんどん寄ってくるんだよな~としみじみ。
何かと疑り深い私じゃ、絶対にこうはいきません。ちょっぴり自省の念に駆られたことも、併せてご報告しておきます。
とにもかくにも、『おかっぱちゃん旅に出る』は、ひとり旅に慣れた人にとってはきっと初心を思い出させてくれ、私と同じくひとり旅未経験者にとっては必ずや勇気を与えてくれるであろう1冊です。
変わり者や何かを極めた人の話は書籍化しやすいですし、実際に熟練バックパッカーの武勇伝が読めるエッセイは数多あります。しかし、ここまでフツーで(良い意味です)、ここまで初々しい作品はなかなか出会えないんじゃないでしょうか。
〈おかっぱちゃん〉はBoojilさんご本人でありながら、同時に私やあなたや僕や君にも置き換えられ、そのあまりにも特別じゃない感じが、逆に物凄くフレッシュに映りました。
※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。
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