クウェー川鉄橋に関する前回の記事の終盤で、ド派手な中国寺院の景観トラブルについて軽く触れましたが、何も上座部仏教と大乗仏教がタイでいがみ合っているわけではありません。
むしろその逆。例えばネットで拾った片岡樹さんの論文『中国廟からみたタイ仏教論』では、タイに渡ってきた中国系移民の信仰に対する姿勢が以下のようにまとめられていました。
本国で大乗仏教にすでに馴染んでいた彼らは、上座仏教寺院への参拝に躊躇することもなく、仏教徒タイ人が崇拝する対象をも自分たちの宗教のなかで受け入れてきた
タイの華人はその他の地域よりも一般的に同化傾向が強く、現王朝も華人の帰化を促進。結果、タイ族か華人かを区別するのもナンセンスに思えるくらい、両者はごく自然に交わっています。
クウェー川鉄橋近くの北碧觀音福壽宮(Guan In Temple)は、あくまでも建設に至る経緯がまずかった稀なケースであって、タイにおいては多数派の上座部仏教徒も少数派の大乗仏教も、傍から見ているぶんには概ね仲良く共存している印象。
そんな様子がわかる大乗仏教の寺院が北碧觀音福壽宮の4km先に建っているので、今回はそのWat Thaworn Wararam(ワット・ターウォン・ワラーラーム/วัดถาวรวราราม)にフォーカスしてみました。
タイでは珍しいベトナム式の寺院
地元の方にはWat Yuan(ワット・ユアン)の愛称で親しまれているWat Thaworn Wararamは、中国系の僧侶ではなく、ベトナム系の僧侶が作ったお寺です。
1970年代にタイ政府が公表したデータによると、当時、国が承認していたベトナム式の寺院は10寺。そのうちの7つがバンコク、しかも4つはチャイナタウンのヤワラーにあります(※本稿の主役であるWat Thaworn Wararamも10のなかの1つに入っていました)。
ベトナム系移民のコミュニティーは華人の居住地域に作られることが多かったらしく、住職も檀家さんもベトナム系と中国系がゴチャ混ぜになっているとか。
実際、Wat Thaworn Wararamから1km弱離れた場所にあるパークプレーク地区も、もともとベトナム系と中国系の移民をメインに構成されていたと言いますし、近くの墓地もベトナム系と中国系の方が分け隔てなく埋葬されています(※写真上)。
とにもかくにも、現在もタイではあまり多くないベトナム様式を採ったWat Thaworn Wararamは、ラーマ3世の在位中(1824~1851年)に建立。パークプレークにコミュニティーができて間もない時期に誕生した計算になります。
少なく見積もっても170年以上。しかし、歴史の長さみたいなものはほとんど感じられません(※単に古さを感じさせないというだけで、ネガティヴな意味は一切ないです)。
ポップでカラフルな境内
上の写真がWat Thaworn Wararamの本堂。とにかくデカくて、キレイで、真新しい! ついでに、トイレもきちんと清掃が行き届いていました。
「これでもか!」とばかりに大小さまざまな龍と蓮の花のモチーフを散りばめ、色合いは目がチカチカするほど派手。パッと見の世界観は、曰く付きの北碧觀音福壽宮と大して変わりません。
ぶっちゃけ、無知な私は中国式とベトナム式の違いがわからず、事前に調べていなければWat Thaworn Wararamも華人の作った寺院だと思い込んでいたはず。
ただ1つ北碧觀音福壽宮と決定的に異なるのは、市民の皆さんが憩いの場としてWat Thaworn Wararamを普通に利用している点です。
境内の大きな池に沿ってゆっくり散歩している年配の方がいたり、クウェー川を眺めながらベンチでキャッキャしている若いカップルがいたり。
ちなみに、こちらのページで取り上げているWat Nuea Floating Mariket(ワットヌア水上市場/ตลาดน้ำวัดเหนือ)も同じ敷地内。
余談ですけど、地図上にWat Nueaというお寺は見当たらず、おそらくこのへん一帯の住所がBan Nueaであることから、ナイトマーケットの名前にWat Nueaと冠しているっぽいです(※見当違いだったらゴメンナサイ)。
また、Thaworn Wararamの隣にはタイ様式のWat Thewa Sangkharam(ワット・テーワ・サンカーラーム/วัดเทวสังฆาราม ※写真下)なる寺院が建っています。
この2つのお寺の間には大それた柵や塀がなく、シームレスに行き来可能。私は同じお寺なのかと勘違いしていました。
Wat Thewa Sangkharamには60年前にプミポン前国王の植えられた木が大切に育てられています。崩御7年強が過ぎたいまも前国王の絶大な人気を思うと、このお寺が地元の方にとっていかに特別な存在かは想像に難くありません。
大乗仏教のWat Thaworn Wararamと上座部仏教のWat Thewa Sangkharamが、ごく自然と隣り合っている風景を前に、思想の違いはあるにせよ、そこに排他的な感情はなく、きっと互いに寛容なんだろうな~と感じた次第。
何やかんや書いていますが……
ここまでの原稿を読み返してみたら、もっともらしく書いちゃっていますね。そもそも『タイにおける大乗仏教の立ち位置』ってタイトルも仰々しくて赤面モノ。
最後の最後に物凄く率直な感想を言うと、Wat Thaworn Wararamは小難しく考え込むタイプのお寺じゃなく、ポップで、カラフルで、フォトジェニックなワクワク系のお寺です。
私のお気に入りは、何とも言えない表情を浮かべた超巨大な大黒様。日没後にはビカビカにライトアップされるんですよ。もう笑いすぎて手が震えました。
市内中心部に位置し、ロケーションも良いため、カンチャナブリーへ行かれた際は、ぜひ軽いノリでふらっと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
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