FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

鹿取茂雄『封印された日本の秘境』|読書旅vol.79

今月は彩図社強化月間。嵐よういちさんの『海外ブラックマップ』に続いて取り上げるのは、鹿取茂雄さんの『封印された日本の秘境』(2010年/彩図社)です。

 

家庭と趣味の両立

2006年作『命がけで行ってきた 知られざる日本の秘境』でデビューした鹿取さんは、栗原亨さんや酒井竜次さんらと並び、昨今の廃墟/酷道ブームを牽引するフリーライター。本業は薬品メーカーで研究開発業務に従事する会社員です。

『封印された日本の秘境』のプロフィール欄には、「週末は四人の子供との家族サービスが中心だが、月に一度は許可をもらって趣味の日を設けている」との一文も。マニアの間でカリスマ的な存在を誇る鹿取さんとて、家では奥様に頭の上がらない、どこにでもいる普通のパパ。何だか微笑ましいです。

私にとって秘境とは、多くの人が知らないか、あるいは行こうと思わないため訪問者が少なく、かつ胸おどらせるような絶景があったり、心に残る体験ができる場所だ。

そして、最大のポイントは、行こうとさえ思えば、誰でも簡単に行くことができること。登山や潜水などの特別な装備やスキルを必要とせず、誰でも気軽に行くことができる。それなのに、人がいない。そんな場所こそが、本当の秘境だと思っている。

誰でも気軽に行くことができる――ここだけ切り取ると、〈いっそ趣味と家族サービスを合体させ、みんなで行けばいいのでは?〉と考えてしまいがちですが、鹿取さんの秘境巡りにご家族を巻き込むのはレジャー・ハラスメントみたいなもの(言い過ぎ?)。

短い休みをやりくりしながら強行スケジュールで目的を達成する著者の勇士は、家庭と趣味を上手く両立できずに悶々としている世のお父さん方にとって、ちょっとしたエールになる……かもしれません。

 

忘れ去られた場所

鹿取さんが過去に訪れたおびただしい数の秘境から11か所を厳選して紹介していく『封印された日本の秘境』。全体の構成は「深い緑に覆われた秘境」「人の気配が残る秘境」「命がけの秘境探検」の3章立てになっています。

本書を手にするまで聞いたこともなかったスポットはもとより、長崎県軍艦島青森県恐山といった有名観光地もチラホラ。それこそ軍艦島のレポートはいまやネット上に溢れているものの、鹿取さんが上陸したのはまだ立入禁止時代です。

漁船釣り船をチャーターするつもりが、「バレたら漁協から追い出されて生活できなくなるから」と軒並み断られ、「その後、詳細は書けないが、それなりの金銭と引き換えに上陸できる方法が見つかった」とか。

かつて世界で一番人口密度が高かったと言われるこの廃墟島に海上警察の目を掻い潜って足を踏み入れ、ひと通り建築物を見学し、最後にいまも島で唯一稼動している灯台の下に座って昼食をとる鹿取さん。私はこのシーンが大好きです。

時間が限られている中、食事をしなければもっと多くの建物を訪問できただろう。この軍艦島を不法に訪れる者の多くは、そうしているに違いない。だが、かつてこの島に暮らしていた人たちも、1日に3度は食事をしていた。たった一度ではあるが、食事という人類普遍の行為を通じ、当時の人たちと同じ行動をすることで、距離が縮まる感じがする。

この島に一歩足を踏み入れた時から、どんどん現実の世界から離れていく感じがしていたが、春風に当たりながら当時の暮らしぶりを想像していると、目の前の非現実的な世界が、現代の世界と少しずつ結び付いてくるように思えた。

また、京都大学が所有する原生林、芦生の森にまつわる話も心に強く残った箇所の1つ。芦生の森では1980年代にダム建設の話が持ち上がり、反対派住民の健闘も虚しく、水没予定地となる一部の地域は廃村に。

しかし、時を経てダム計画は白紙に戻され、いま残るのは住人のいない朽ち果てた家屋と〈部落を割る関電電発に絶対反対〉と書かれた看板のみです。

無理矢理追い出された挙句、結局は建設されずじまいに終わったダム。村民たちの立場で考えるとやりきれない気持ちになりますし、本書を通じてこういう場所の存在を知れたのは自分にとって大きかったです。

 

秘境の旅は終わらない

他にも、観光地化されていな風穴や氷穴をめざして山梨県青木ヶ原樹海を散策していたら、パトカーに不審がられたり、供花を見つけてしまったり。

はたまた、青森県日本キャニオンに挑むも本家グランドキャニオンの推定100万分の1程度の規模に脱力したり、天然温泉の自然滝に浸かろうと秋田県川原毛地獄に赴くも硫黄水素ガスが凄いわ、肝心のお湯も冷たいわで早々に退散したり。

ひと括りで秘境巡りと言っても、場所によって様子はさまざま。バッド・ハプニングもたびたび起こり、総じて〈誰でも気軽に行ける〉とは到底思えません。

立入禁止の標識を前にするとついつい先へ進みたくなり、手つかずの洞窟を見つけると中に入らずにはいられない鹿取さんの悲しい性。本編は以下の文言で締め括られています。

秘境の探索は、時に困難だったり、危険だったり、披露を伴うこともあるが、必ずそれに応えるだけの充実感や達成感、そして感動が味わえる。まれに期待を裏切られることもあるが、それも楽しみの一つ。これだから秘境巡りはやめられない。

この日本には、知られざる秘境が多く存在している。秘境の旅はまだ終わりそうにない。

海外好きだった友人のなかには、コロナ禍国内旅行に開眼し、〈しばらく外国はいいや〉と言っている人もいます。そういえば、ツレも昨冬から山登りに突然どハマリしていましたっけ(しかも登山道じゃない獣道を通るワイルドなやつ)。

こういう書籍や身近な人の体験談に触れるたび、日本の魅力を知ろうともせずに暮らしてきた自分を悔やみ、せっかく日本に生まれたのだから日本を遊び尽くさなきゃもったいないなと思えてきます。

皆さんもぜひ『封印された日本の秘境』を読んで、日本を再発見してはいかがでしょうか。ついでに、案外シルバーウィークの計画にも役立つ1冊な気がします。私は日本キャニオンとグランドマインキャニオンに行きたくなりました(笑)。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

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