FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

椎名誠『わしらは怪しい探険隊』|読書旅vol.28

更新頻度的に早くも年内最後の記事になる予感。コロナ2年目がゆっくり終わろうとしていますが、皆さんにとって2021年はどんな年でしたか?

旅行好きが高じて〈海外に移住するぞ!〉と意気込み、仕事を辞めたものの、モタモタしているうちに日本から出られなくなってしまった私としては、2020年に続いて歯痒さたっぷりな1年でした。その一方、いまの状況をそれなりにエンジョイしている自分もいます。

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何せ年間通じてこんなにも時間的/精神的にゆとりのある日々は初めて。化粧する機会が減ったのと睡眠時間が伸びたのとで、肌の調子はすこぶる良好です。ステイホームもネガティヴな面だけじゃありません。

読書離れしていた私がふたたび本と向き合いはじめたのだって、長引く外出自粛生活の賜物。こちらの記事でもチラッと書いた通り、YouTubeばかり見ていたコロナ元年を経て、断捨離をきっかけに自室で眠っていた本と再会し、改めて紙の本が持つ魅力を実感した次第です。

 

椎名vs引きこもり

さて、そろそろ本題へ。今回選んだのは椎名誠さんの『わしらは怪しい探険隊』(1980年/角川文庫)。椎名さんは、自分の中で読書熱が再沸騰した2021年を象徴する作家さんの1人です。

ブログで椎名さんの著書を取り上げるのは2回目(今年8月にアップした1988年作『インドでわしも考えた』の感想文はこちらから)。ここへきて代表作『わしらは怪しい探険隊』をチョイスしたのは、〈1年の締め括りだし、有名な作品にしておこうかしら?〉と思った程度で、特に深い意味はありません。

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ついでに言うと、私自身、熱心な椎名誠ファンと呼ぶには程遠く、最新刊の『漂流者は何を食べていたか』も未読(出ていたことすら知りませんでした。おもしろそうなので近いうち読みます!)。

それなのになぜ〈私的2021年を象徴する作家さん〉なのか。かつて不登校だった知り合いの男性が、学校へ行かずに椎名誠さんの本をひたすら読み漁っていた……っていう話を急に思い出したんです。

で、実質引きこもりみたいな毎日を送ってみて、初めて彼の気持ちをちょっぴり理解できました。前回の『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』に登場した、ドヤで働く元引きこもりのコミュ障青年も椎名誠好きと紹介されていましたっけ。

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椎名作品の多くを占めるテーマが冒険仲間。引きこもりとは真逆の世界観です。どんな人でも多かれ少なかれ〈社会と繋がっていたい〉とか、〈知らない世界を見てみたい〉とか、〈他人とコミュニケーションを取りたい〉といった思いを持っているはず。しかし、何かしらの事情でそれができない人々が椎名作品のもとに集い、諸々の欲求を満たしているんじゃないのかな~、なんて。

旅エッセイだったら何だってOKなわけじゃありませんよ。陽キャ100%で〈外遊び最高~!!!!!!〉と叫ばれても、正直ウザったい。そこは飄々としていて、時に自嘲混じりで、ほんのり哀愁漂う椎名さんの筆致だから、わしら引きこもり軍団も卑屈にならずスッと素直に読める気がしています。

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さらに、やりすぎなくらい細かい情景描写が臨場感とワクワク感を引き出すのに加え、思わぬタイミングでどんどん話が脱線してしいく感じも大きな特徴。私は椎名さんのエッセイを読んでいると、安酒場で隣り合わせた知らないオジ様の武勇伝を聞いているような感覚にしばしば陥ります。そんな読者に語り掛ける系の文章スタイルが、引きこもり生活で溜まった〈誰かとコミュニケーションを取りたい欲〉を満たしてくれるのかもしれません。

 

『怪しい探険隊』シリーズとは?

『わしらは怪しい探険隊』は上述した椎名節が炸裂する1冊で、現在もメンバーを替えながら続いている人気シリーズの第1弾です。なお、〈怪しい探険隊〉なのか、〈あやしい探険隊〉なのか、作品によって表記は定まっておらず、ここでは公式ホームページ『椎名誠 旅する文学館』に倣って〈怪しい探険隊〉で統一。まあ、こんな細かいことを気にしていたのでは、椎名隊長に鼻で笑われますかね。

『怪しい探険隊』シリーズを超端的に説明するならば、いい歳した大人の男がさまざまな場所(主に)へ赴き、テントを張り、魚釣りをして、自炊し、を飲んでワイワイ騒ぐ、以上。ほとんどの場合は3泊4日前後の出来事です。

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記念すべきシリーズ1作目『わしらは怪しい探険隊』のメイン舞台は、写真上の三重県神島(散発的に八丈島粟島のエピソードも登場します)。例えば島に到着した最初の夜。蚊の大群と格闘した一部始終を18ページに渡って説明する執拗さよ。そもそも本書の始まりから島に到着するまでだってかなりの長さです。

後にご本人が「これほど楽しんで書いた本は後にも先にもありません」(『自走式漂流記1944~1996』より)と振り返っているのも納得の、めちゃくちゃ自由気ままに書いた様子が文章の端々で窺えますし、可能限り自給自足をめざす怪しい探険隊に相応しく、文庫本の解説や表紙のイラストを神島に同行した隊員が担当しているあたりも徹底しています。

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隊員にはそれぞれ役割が与えられ、炊事班長が島滞在中に作る食事は①カレーライス、②けんちん汁、③ブタ汁の3パターン。これはどこでキャンプしても基本変わらないらしく、何とも男臭いメニューです。缶ビールを海中10メートルに沈めて冷やす方法にも驚かされました。

〈そこまでやる必要ある?〉的な質問はナンセンス。みずから率先して不便を楽しみ、大自然を全身全霊で満喫していくご一行の姿に、多くの読み手が冒険心を刺激されるでしょう。

折しもコロナ禍を追い風にキャンプ・ブームが過熱している昨今。散々引きこもり云々と書きつつ、本書はガチのキャンパーさんが読んでも共感できるであろう小ネタがあちらこちらに潜んでいます。

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あともう1つ。私は『怪しい探険隊』シリーズを読むたびに、男って恐ろしくアホな生き物だな~と、良い意味で呆れています(良い意味なのか?)。本編に出てくる、ちっぽけな見栄から神島1周を泳いで勝負する事態となったくだりは、その最たる例。

危険を顧みず積極果敢にバカバカしいチャレンジをしてしまう思考回路……私には到底理解できません。理解はできませんけど、悔しいかな、こういう男たちの性(さが)を愛おしく思ってしまうのも事実。

つまり何が言いたいかというと、『わしらは怪しい探険隊』は超インドア派超アウトドア派も、いくつになっても少年心が消えない男性陣も、それを見守ってきた女性陣も、わりと全方位で楽しめる不思議な懐深さを湛えた1冊なのです。

お時間があれば、ぜひ怪しい探険隊の一員になったつもりで読んでみてはいかがでしょうか? 過去に読まれている方でも、コロナ禍中に再読することできっとまた違った味わいを得られると思いますよ。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

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