FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

現在は旅の記事をお休みし、旅関連の本を紹介する読書ブログに切り替えています。

水谷竹秀『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』|読書旅vol.15

今回は珍しく重たいテーマの書籍を取り上げてみます。第9回開高健ノンフィクション賞にも選ばれた2011年刊行の『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)。

日刊マニラ新聞の記者だった著者の水谷竹秀さんが、フィリピンで困窮邦人の取材を始めたのは2009年。ちょうど外こもり人口が急増した時期と近いです。

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日本で短期間お金を稼ぎ、物価の安い東南アジア長期滞在する――「わざわざ海外に行ってまで引きこもらなくても……」っていう意見はさておき、外こもりに関しては福ちゃんを筆頭とするカリスマも生まれましたし、むしろ選択肢の1つとしてアリだと思っていました。

対する困窮邦人は、本作の解説で橘玲さんも「ほとんどの読者は、困窮邦人という存在をどう考えればいいか困惑するだろう」と書かれている通り、モヤモヤ度はそうとう高め。読み返すたびに結構しんどくなります。

 

困窮邦人って何? なぜフィリピンには多いの?

同じ題材を扱ったドキュメンタリー映画なれのはて』(*詳しくはこちらから)が今年末に全国順次公開されるのも相俟って、再び注目度が上昇している困窮邦人。端的に説明すると、滞在先で所持金を使い果たし、路上生活ホームレス生活を強いられている在留邦人ことを指します。

2010年に在外公館に駆け込んで援護を求めた困窮邦人の数は768人。そのうちの332人フィリピンで、2位のタイを3倍以上引き離し、全体の43%を占めていたとか。試しに外務省が発表している海外邦人援護統計の最新版にあたる2019年のデータを見たところ、大使館に助けを求めた困窮邦人の総数は377人。国別の内訳は不明ながら、そのうちアジアが274人と全体の70%強でした。

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数が半減したのは、過去10年で困窮邦人自体が減ったからか、はたまた大使館に救いを求める人の数が減ったからか。何となく私は後者の理由のほうが大きいのかな~と推測しています。というのも、大使館の立場上、簡単には困窮邦人を支援できず、国の援助を受けて日本に帰国できるのは年間でほんの数人。無駄足を踏むくらいなら、諦めて状況を受け入れる人が大多数なんじゃないかと。

それにしたって、なぜにフィリピン? 本著に出てくるほとんどの困窮邦人は、ふとしたきっかけでフィリピンパブの女の子にどハマりし、妻子や職を捨てて渡比。そしてフィリピン女性やその家族にお金をせびられ、気付けば無一文になって捨てられるパターンが目立ちました。

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退屈な日常生活の中で出会った女の子に癒され、彼女のためにあれこれ尽くしてあげたくなる。女の子たちはお金に惚れ、殿方はそれを喜ぶ姿に惚れた――気持ちはわからなくもないです。

でもね、全財産を失う手前でブレーキは掛けられなかったのか。どんなに彼女の喜ぶ顔が見たくても、普通はビザの更新代最低限の生活費くらい残すでしょ。女性側が100%悪いとは到底思えず、男性側のだらしなさに何とも言えない感情が湧いてきました。

女性絡み以外には、借金or何らかの罪で人から追われ、夜逃げ同然でこの国に訪れた人も登場。小向美奈子さんもかつて覚醒剤の使用発覚でマニラに潜伏していましたっけ。ヤクザ関係者がフィリピンに飛ぶ話って昔からよく聞きますよね。

ドゥテルテ大統領が就任して以降は変わってきた模様ですけど、それ以前は札束を握らせて警察を抱き込むなんて朝飯前。腐敗した体制も訳あり邦人が渡比しやすい要因となり、やがて金が底を尽きて路頭に……みたいなサイクルなのでしょう。

 

助けるべき?

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それぞれの事情で行き場を失った日本人に手を差し伸べるのは地元のフィリピン人食事を分け与え、シャワーを貸し、時には仕事も提供。しかも多くの方々が自身も貧しい境遇なのには驚きました。

自分より困っている人を見たら迷わず助け、何にも増してファミリーを大事にする彼らは、どうして日本大使館や企業で働くお金持ちの駐在員が困窮邦人をサポートしないのか、不思議がったり、怒ったりしています。

一方、現地の駐在員から「そんなダメ人間の本に興味を持つ人はいないよ」と著者は何度も言われたそうです。日本人が冷たすぎるのかしら?

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兼ねてから私は、「日本って一度道から外れてしまった人に対してやたらと厳しい国だよな~」と感じていました。例えば著名人が麻薬で捕まった時。公共の電波に乗るコンテンツが打ち切られるのは理解できます。だけど、映画の公開中止CD/書籍の回収など、お金を払って楽しむものまで抹消する必要ありますかね? 「選ぶか選ばないかは受け手に決めさせてよ」的な……。

復帰までの道のりも険しいことは言わずもがな。見せしめの如く取締を強化するのも結構ですが、更生できる環境だってちゃんと整えてあげてほしいです。同じく、裏社会にいた人間が表社会で真っ当に生きる決心をしても、世間がなかなかそれを許さないという現実。

ちなみに、タイでは刑期を終えてシャバに出てきた犯罪者に対して、ご近所さんはウェルカムなムードで受け入れると、何かの本で読みました。過去よりも大事なのは現在とこれから始まる未来。タイのこういうカルチャーが私は大好きです。

 

放っておくべき?

とは言いつつ、個人の意思でフィリピンに来て、勝手に有り金を使い果たした人を、国が全面的に助けるのはいかがなものか……と思う自分もいます。

真面目に働いて納めた税金が、若いフィリピン娘にうつつを抜かして破産したおじさんや、借金返済を放棄して海外逃亡した人に使われるのはやっぱり複雑。いまさら「帰国したい!」って言われてもねえ。義務を果たさず権利を主張するのはただのワガママにすぎません。

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税金で賄う以上、大使館には国民を納得させなければならず、簡単には困窮邦人を支援できません。日本に住む生活困窮者を差し置いて、みずから国を出た人を助けるのは道理に反しますよね。

だから、大使館職員のやれることは、困窮邦人の家族知人とコンタクトを取り、帰国に掛かる費用を肩代わりしてもらえないか打診する程度。しかし、多くのケースは肉親すらも援助を拒否するらしく、困窮邦人が日本を捨てたのか/日本に捨てられたのかは微妙なラインです。

皆さんは困窮邦人の問題についてどう思いますか? 未読の方にはぜひ手に取っていただきたいので、本の骨子となる悲惨な暮らしぶりや各々の人となりは割愛したものの、おそらく「自業自得だ」と苛立つ方もいれば、「チャンスを与えるべき」と感じる方も、「明日は我が身だな」と思う方もいらっしゃるでしょう。

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私は完全に3番目でした。自由を求めて海外で暮らしたい気持ちは、取材対象者とまったく同じ。自分が移住先で詐欺に遭わないとも言い切れないし、アホなツレがニートラップに引っ掛かる可能性だって多いにあります。

この問題については何が正解なのか本当にわかりません。たぶん正解はないんじゃないかと感じます。

何にせよ、自由には必ず責任が伴う――これだけは間違いありません。「自由に生きるためには何を手放さなきゃいけないか?」ばかりに気を取られ、やるべきこと守るべきことを見失わないようにしなきゃと、海外移住を夢見る私としてはしみじみ考えさせられる1冊でした。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

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