FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

椎名誠『インドでわしも考えた』|読書旅vol.9

前回取り上げた『ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ 1』に出てくる1人の旅人が、「インドはこれからのためにとってあるの」と語った言葉に、「それ自分もまったく同じです!」と激しく頷いてしまいました。

周りの友達からアジア好きと思われている私は、実のところまだインドに行った経験がありません。わりと意外がられるのですが、ぶっちゃけ昔からインドを警戒しているんですよね。

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夏休みをフルに使ってインドを周遊する予定だった大学の同級生が、着いて早々に伝染病を患って即入院。長い休みが明けてもしばらく学校へ戻れず、久しぶりに会った彼は見間違うほどガリガリ+肌もガビガビに。

さぞかしインド嫌いになっているかと思いきや、バッキバキに目を見開いて「インド最高!」と言うじゃないですか。

これがたぶん最初に「インドって何なんだ!?」と感じた出来事(*その後も彼は頻繁にインドへ通い、確か途中で休学したような……)。

あとはパリピ系女子が軽い気持ちで10日間のヨガ留学に参加し、思いっきりスピリチュアル化して帰国した時にも、得体の知れない恐怖を覚えました。

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その他、インドかぶれの友人を見て、自分がインドへ行って何事もなく帰還できるとは到底思えなかったのです。特に若い頃の私は異常に影響されやすくて……。

バックパッカーがヤバイと口を揃えるインド。かつて三蔵法師も目指したその地には、間違いなく何かがあるのでしょう。私はその〈何か〉に人生を狂わされるのが怖くて、「いつか行こう、でもいまではない」と思い続け、気付けば結構な歳を重ねて現在に至ります。

ということで、インド旅行に消極的な私が今回手に取ったのは『インドでわしも考えた』。1984小学館から刊行され、1988年集英社から文庫化された椎名誠さんのインド道中記です。

 

椎名vsインド!?

椎名誠作品についてブログで書くにあたり、『怪しい探検隊』シリーズとか、87年の『パタゴニア-あるいは風とタンポポの物語り』とか、まずは代表作と呼ばれているようなものから先にピックアップしようかな~とも思いました。

しかし、仮にコロナ自粛がまだまだ長引いて日本から出られない日々が続き、旅ブログ改め読書旅ブログが回数を重ねていくとしたら、いくらでも紹介する機会はあるだろうと。

つまり、あえて代表作を避けたというより、『インドでわしも考えた』を選んだのは完全に気分の問題。別に天邪鬼ぶりを発揮したわけではありません。

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『インドでわしも考えた』を初めて読んだのは大学時代。確か江古田の古本屋で出会いました。すでに〈インド〉に対してビビッていた頃です(でも興味は津々)。

それまでに読んだインド関連の書籍は、インドの哲学思想を大真面目に解説していく少々アカデミックな本にせよ、かの地の風土にカルチャーショックを受けて価値観が変わった様子をユーモラスに綴っていく軽めのエッセイにせよ、ゴールにあるのは自分の内面と向き合ってどうのこうの……的な。

そういう書物を読んだ後は決まって「やっぱり目的意識が高くなきゃ、インドは行くべきじゃないな」と感じてしまい、インドに対するハードルはますます上がるばかりでした。

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もっとも、インドで受けた衝撃をユーモラスに綴っていく意味では『インドでわしも考えた』も数多ある旅エッセイと同じ。とはいえ、椎名さんは別にインドに答えを求めず、内省もしないし、悟らないし、宇宙と繋がろうともしません。

あの強敵インドが相手だろうが、椎名誠椎名誠――その揺るぎない椎名節にニヤリとし、なぜか私まで誇らしい気持ちになった記憶があります。

 

あまり考えてなさそうなインド旅

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何の予備知識も持たないままインドに行こうと決め、ガイドブックの類は一切読まなかったと語っている椎名さん。

「インドの人は本当に毎日カレーを食べるのか?」とか、「女性はサリーを着て、男性はターバンを巻いているのか?」とか、そのレベルです。

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椎名さんがインド旅のメイン・テーマに据えたのは、空中3メートルを浮揚するヨガの達人を見つること。たまたま週刊誌で目にした、どう考えても疑わしい情報が彼の好奇心に火を点けたようで……。

いや~、実にバカバカしくて最高じゃないですか。『マツコ&&有吉 かりそめ天国』で知って以来、Blu-ray化を密かに熱望している『川口浩探検隊』くらいバカバカしい。大人が真剣に遊ぶ姿ってカッコイイよなって、いま改めて感じています。

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そんなこんなで始まる椎名さんのインド旅。お供するのは記者1名カメラマン1名です。その記者の方が予めインド政府観光局にあれこれ相談していたらしく、入国するや否や、観光局から派遣されたガイドの登場に面喰う椎名さん。

どの都市を巡るかだけ決めて、あとは行き当たりばったりの旅をするはずがまさかの事態。デリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタ、バラナシ、カジュラホ、アーグラ、そしてふたたびのデリーと、行く先々でもやっぱり政府観光局絡みのガイドがお出迎えし、お付き合い程度に観光名所を訪れながら、何とかミッションを達成しようと奮闘していきます。

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各地で受ける手厚いもてなしに戸惑う椎名さんご一行と、それぞれにキャラと押しの強い案内人やヨガ・マスターの温度差がおかしいの何の。

ガンジス川で沐浴し、己の罪と汚れを清めた数時間後にはビールの誘惑に負け、ミトゥナ像と新宿歌舞伎町のポルノな世界を重ね合わせ、タージ・マハルの美しさにはものの5分でお腹いっぱい。〈わしも考えた〉って言われても、「ホントにちゃんと考えた?」とツッコミたくなる場面の連続です。

インド文化に心酔されている方が本書を読んだら、「インド悠久の歴史が……」と嘆くかもしれません。でも謎のインド幻想に囚われていた私は、「こんな軽薄な感じでインドを旅するのもありなのね!」と目からウロコが落ちまくりでした。

 

言わずもがな、〈軽薄〉というのは私なりの最高賛辞。何かと意味を求めてしまう人は、旅も人生も心の底から楽しめなさそうですもんね。

かくいう私も、ちょっとの油断ですぐそっち側に行っちゃうタイプ。だから『インドでわしも考えた』を通じて、「ただ無邪気にその場その場の状況を満喫していけばOKなんだ!」と、当たり前のことを学ばせてもらっています。

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もちろん、深部に迫ろうとするインド旅を否定するつもりは微塵もありません。単にこういう軟派なインド旅も良いよな~といった具合で、「インドに対して何を怯えているの?」と自嘲混じりに本書をご紹介させていただきました。

それにしても、クソ暑い季節に読み返すべきじゃなかったな。椎名さんの言葉を借りると、ボリウッド・スターの〈スケベ顔〉が私の脳裏にのっぺり貼り付いて体感温度は10度増しです。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

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