FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

さくら剛『中国なんて二度と行くかボケ! ...でもまた行きたいかも。』|読書旅vol.105

母のリハビリ生活が長引く最中に、ご両親の介護について綴ったさくら剛さんのnoteを一気読みし、著者に対する印象がガラリと変わりました(※詳しくはこちらから)。自然と涙が溢れてきました。

ただし、それを紹介するのは自分的に違和感。あくまでも当ブログのテーマはです。旅に出られない期間であっても、そのコンセプトは残しておきたい。

そこで、今回はnoteの代わりにさくらさんの『中国なんて二度と行くかボケ! ...でもまた行きたいかも。』(幻冬舎文庫)をピックアップしました。

 

日本発、アフリカ経由、中国行き

タイトル通り本著の舞台は中国です。けれども、旅の始まりは南アフリカケープタウン。「来週から北京に留学します。お元気で」とのメールで恋人に振られた引きこもりのさくらさんは、愛する彼女に会いに北京を目指します。

ただ彼女を追いかけるといっても、こんなしょーもない自分に魅力などひとつもないということがよくわかっていたため、わざとスタート地点を遠くに定め、もっと強くなって、今はスカスカな自分の中身を埋めながら、中国に、彼女に会いに行こうと思い旅をスタートしたのである。

おそらく多くの人が「たぶんそういうことじゃない気がするな~」と感じているはずですが、そのモヤモヤは一旦忘れましょう。

なお、中国までの道中は『中国初恋』なる美しい表題で2007年に書籍化。2011年には『アフリカなんて二度と行くか!ボケ!!…でも、愛してる(涙)。』と『アフリカなんて二度と思い出したくないわっ!アホ!!…でも、やっぱり好き(泣)。』に改題し、上下巻に分けて文庫化されています(※前者の感想文はアップ済みです)。

さて、たいぶ遠回りし、ようやく中国へと足を踏み入れたさくらさん。感慨に耽る暇もなく、のっけから愚痴が止まりません。

ちなみに、本編の8割強が愚痴なのに加え、プロローグでは「この本は、全体を通してお食事中以外に読まれることを強くお勧めいたします」との断り書きが……。

読書って想像力をフル稼働させ、その世界観に没入したり、主人公の人生の1コマを追体験できたりするのが醍醐味かと思います。

でも、『中国なんて二度と行くかボケ!』において想像力を過度に働かせるのは危険。油断するとすぐさま胃酸がこみ上げてくるので、厳重な注意が必要です(※以下の拙感想文もお食事中には適さない旨を予めお伝えいたします)。

 

汚トイレとカーペッペ問題

作中でかなりの紙幅を割いているのがトイレの話題。日本ではニーハオトイレとも呼ばれている壁ナシ空間の、不便さ、恥ずかしさ、踏ん張りづらさが切実に語られています。

漢字や律令制度と一緒にこのトイレの習慣が日本に伝来しなくてよかった。ちゃんと取り入れるべき文化とそうでないものをうまく見極めた、遣隋使と聖徳太子、ありがとう。

やたらと壮大な話に発展しているものの、書かれている内容はシモのあれこれ。1日体験入門した嵩山少林寺近くの武術館にあるトイレの挿画なんて、4cm弱の小さいモノクロ写真で本当に助かりました。

扉付きの個室トイレかと見せかけて、まさかのツイン・タイプだったエピソードもビックリ。おじさんの先客がいるのに躊躇なく中へ入っていった別のおじさんを目撃し、さくらさんはよからぬ行為が始まるんじゃないかとドギマギしたそうです。

汚トイレに次いで本書の重要なポジションにつけているのが、場所を選ばずたんを吐きまくる中国の方々の様子。食堂でも列車内でもお構いなしにカーペッペ!とやり出す彼らには、カルチャーショックを禁じ得ないでしょう。

とはいえ、自身の名を冠した作品に、一度ならずも二度・三度・四度・五度、いや、それ以上に渡ってカーペッペ!の話題に触れるのは、いくら読者がおもしろがってくれるだろうと考えたとて、きっとつらかったに違いありません。

そんなファン思いの(?)著者は、中国人によるカーペッペ!風習の有効活用法を指南。世界遺産黄山※写真上)を訪れた際、ロープウェイは使わず、自力で登ったさくらさんは、途中でいくつもの分かれ道に遭遇します。

その時、落ちている唾の痕跡を探せば遭難する心配なしと。業者や観光客が歩いた道は必ずネチョネチョしていると。これは世紀の大発見ですね(テキトー)。

 

渦巻く愛憎

本著は、中国の方には読まれたくない、もしも目に触れてしまったが最後、ますますの日中関係悪化を招きかねない、偏見たっぷりな汚い話のオンパレード。

言わずもがな、中国にだって良い面がたくさんあるのもわかっていますよ。さくらさんは格闘ゲーム三國無双』で培った『三国志』の知識を元に、中国全土100か所以上の史跡を巡ったベストセラー『三国志』(2008年)も執筆しているくらいで、そうは言っても中国を愛していらっしゃるはずです。

しかし、少なくとも『中国なんて二度と行くかボケ!』内で羨ましく感じた(≒著者が楽しげだった)場面は、パンダが暮らす大熊猫繁殖基地と、オープン間もない香港ディズニーランドなど、ごくわずか。

果てしなく長い移動時間をはじめ、苦行さながらの日々を(言わなくていい部分まで)詳細にレポートされています。

何がやばいって、この原稿のベースを音声入力で作成したらしいんですよ。大の男が画面に向かって「オエ~~~~~ッッ(号泣)!!!」とか、「アホぬかせっ!!!」とか、「ふざけんなああああっっっ!!! ぎゃーーーーーー!! ワオオオーーーーー!!!」とか、ぶつぶつしゃべっている姿を思い描いてみてください。

背筋が凍りませんか? どんなホラー作品よりもホラーじゃないですか? さくらさんが隣人だったら、私は迷わず通報していると思います。

 

旅を終えて……

別れた恋人と再会できたか否か、ここでの言及は避けつつ、さまざまな試練を乗り越え、己を鍛えていった1年以上の長期ソロ旅をご本人はこう締め括っています。

思えば日本を出る前のオレというのは、ただ何も考えずに何ものにも感謝をせずに、家にこもり怠情を貪りながら電子機器と向かい合う日々を漠然と過ごしていた。

でも、その点についてはこれからのオレはもう違うと言える。なぜならばオレは、遥か異大陸から始まった旅を終え、世界に目を向けて考えれば日本に生まれたというそのことだけで、どれだけ自分が恵まれているのかということを理解したからだ。

きっと帰国してからのオレは、清潔なトイレも快適なホットシャワーも完備された空調の効いた部屋で、言葉の壁も今夜の宿も心配いらない状態で引きこもれるという幸せを噛み締め、感謝の心を忘れずに大きな喜びを持ってゲームにインターネットに没頭することだろう。同じ引きこもりでも、以前のオレとは違う。旅に出る前よりも何倍も楽しみを感じながら、自分の運命に感謝して心から引きこもり生活を堪能することができるだろう。

いかん。良いことを書いてある風のこのくだりに、うっかり拍手しかけてしまいました。さんざん罵詈雑言を読み続けたせいで判断力が鈍ったみたいです。

改めて冷静に読み返してみると、海外をハードに旅して得た気づきが、日本でのインドア生活の素晴らしさですって? もっと他にあるでしょうに!

noteの介護日記を読んで涙し、さくらさんとご両親の幸せを心から願った、一点の濁りもない私のキレイな感情を返してほしいです。

……というのは半分ウソ(※半分は本当)。さくら剛節全開のバカバカしい文章※褒めてます)で埋め尽くされた『中国なんて二度と行くかボケ!』のおかげで、我が家の抱えている問題がどれも小っぽけに思えてきました。さくらさん、謝謝!

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

www.gentosha.co.jp

 

ランキング参加中。ぽちっとしていただけたら嬉しいです。

にほんブログ村 旅行ブログへ
にほんブログ村