FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

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ウクライナ民話『てぶくろ』|読書旅vol.54

今年3月に国会演説を行ったウクライナレンスキー大統領が、〈ウクライナ人は日本の文化が大好きです〉と前置きし、オレーナ夫人が目の不自由な子どもたちへの支援プロジェクトに参加した際、日本の昔話ウクライナ語でオーディオブックにしたエピソードを語っていました。

私は演説を聞くまで、日本の昔話がウクライナで親しまれていたことを知りませんでした。夫人が朗読したのは『桃太郎』と『2ひきのかえる』。YouTube公式チャンネルにアップされていた音声を聴くと、何だか不思議な気持ちになります。

youtu.be

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なお、再生数に応じて多少の広告収入ウクライナの地域団体に入ると思うので、ぜひ上の2つのリンクに飛んでみてください。こんなブログを読むよりよっぽど有意義です。その上でお時間に余裕のある方は、しばし私の拙文にもお付き合いを。

 

愛され続けるウクライナ民話

さて、日本でもウクライナの民話は古くから愛されてきました。その代表格が今回ご紹介する『てぶくろ』。先の軍事侵攻を受けてメディアでも頻繁に取り上げられ、久しぶりに読み返された方も多いのではないでしょうか。

私もそのうちの一人です。新品で買い直すのはやめて、メルカリで安く買えたぶん、定価との差額を寄付に回しました(小さい話ですみません)。

たちもとみちこさんやガタロー☆マン漫☆画太郎)さんをはじめ、いろいろな方の手掛けた『てぶくろ』が書店に並んでいるなか、やっぱり私が好きなのは、1965年に日本で初版が発売されたエウゲーニー・M・ラチョフさんの挿絵ヴァージョンです。以下、出版元である福音館書店のサイトから、あらすじを引用しました。

おじいさんが森の中に手袋を片方落としてしまいます。雪の上に落ちていた手袋にネズミが住みこみました。そこへ、カエルやウサギやキツネが次つぎやってきて、「わたしもいれて」「ぼくもいれて」と仲間入り。手袋はその度に少しずつ大きくなっていき、今にもはじけそう……。最後には大きなクマまでやって来ましたよ。手袋の中はもう満員! そこにおじいさんが手袋を探しにもどってきました。さあ、いったいどうなるのでしょうか?

本来は食べたり食べられたりする関係性の動物たちが、限られたスペースの中で共生していく。序盤でてぶくろの住民になったネズミカエルは、後からやって来たオオカミイノシシを、快く思っていなかったかもしれません。

それでも、「わたしもいれてくれ」「ちょっとむりじゃないですか」「いや、どうしてもはいってみせる」「それじゃ、どうぞ」と、けっこうあっさり他者を迎え入れる姿に、平和の在り方を考えさせられました。

動物たちが各々に個性的な民族衣装を纏っている点も含め、実は深いメッセージが込められた絵本だったんですね。

 

ウクライナの優しさ

ゼレンスキー大統領の国会演説後に、山東参議院議長が〈貴国の人々が命をも省みず祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております〉と熱弁していました。

それを否定するつもりはありません。しかし、私がこの2か月強の間でもっとも感動したのは、山東議長の言うウクライナの皆さんの勇敢さではなく優しさです。画面越しで触れたその優しさを、備忘録代わりにいくつか書き残しておきたいと思います。

 

無人のコンビニ

1つ目はデーブ・スペクターさんのTwitterで知った、軍事侵攻が始まって約1週間後の話。1週間前まで当たり前に存在していた日常が一変し、自国の通貨は急落。物流もストップして、徐々に店から品物がなくなっていった時期です。

略奪強奪が起きてもおかしくないのに、最悪の事態に陥ってもなお、秩序立った様子に驚きました。デーブさんの言葉通り素晴らしい国民性が垣間見えます。

 

誹謗中傷は許さない

2つ目はウクライナ人YouTuberのサワヤン兄弟が『ABEMA的ニュースショー』で語った発言。私は番組を観ておらず、下記はYahooニュースからの抜粋です。

ロシア人の方にも、僕とは違う視点での本当に傷つくような言葉が投げかけられていると思う。国を問わず、戦争がベースとなった誹謗中傷は許されないことだと思っている。

ちなみに、下掲の動画は番組出演の4日前にサワさんが上げたもの。この中で、ご自身やお父さんに心ないコメントをしてくる人たちを痛烈に批判しています。

www.youtube.com

戦争をネタに人の命を軽視する冗談などもっての外。〈お前も早く義勇兵になって死ね〉とか、こういうコメントを投稿する輩はどうかしています。日本の恥。いや、人類の恥。いま一度、言葉の重みを見つめ直してほしいです。

で、サワさんが凄いのは、ウクライナ侵攻以降に蔓延るロシア人差別についても、きちんとNOを表明している点。プーチンが勝手に始めた戦争とはいえ、ロシアは敵国です。ウクライナの人がロシア人を労わるって、決して容易じゃないはず。

 

ロシア人は責めないけど……

サワさんの発言と併せて記しておきたいのが、ウクライナ北部のチェルニヒウ空爆に遭い、目の前で父親を失った13歳の少年の言葉(JNNの取材より)。

僕は、ロシア人は責めないけど、大統領を許すことはできない。早く平和に戻ってほしい。

涙をグッとこらえながら大好きな父親との何気ない思い出を語った直後に、〈ロシア人は責めないけど〉という言葉が出てくるとは。この少年のような寛容さが少しでもプーチンにあれば……、戦争で親を亡くした子どもたちの痛みに寄り添える心が少しでもプーチンにあれば……。考えるほど悔しさとやりきれない気持ちが込み上げてきます。

 

皆様も良い1日を

4つ目は情報番組『ゴゴスマ』にリモート出演した、元関西在住で現在は首都キーウ近郊に住む男性の一言。石井アナから「最後に伝えたいことはありますか?」と振られた彼は、日本人からのサポートに感謝の気持ちを述べ、「皆様も良い1日をお過ごしください」とインタヴューを締め括りました。

Have a nice day〉的な定番挨拶を直訳したに過ぎなかったとしても、連日ロシア軍から攻撃を受け、自分や家族や友人が命の危険に晒されている状況で、視聴者の〈良い1日〉を願うフレーズがサラッと言えるなんて。

インタヴュー中にこの男性は「いろいろ大変だけど、みんなタイミングを見て犬の散歩もするし、できるだけ普段通りの生活を送ろうと心掛けています」と話していました。それを踏まえての〈皆様も良い1日をお過ごしください〉に、思わず泣いてしまいました。〈皆様も〉の〈も〉に強い意思を感じるのは私だけでしょうか。

 

戦争に何の意味があるんだろう?

これまでにも苦難の歴史を歩んできたウクライナには、〈隣人とは仲良くしろ。ただし柵は作れ〉という諺があるそうです。警戒はしつつも、仲良く共存していこうとする姿勢は、『てぶくろ』の世界観にも通じる気がします。

こんなにも心のキレイなウクライナの方々が、どうして武器を持って戦わなきゃいけないのか。どうして見ず知らずの土地に避難しなきゃいけないのか。どうして愛する人を失わなきゃいけないのか。私にはさっぱりわかりません。

遡ること2月末。プレミアリーグマンチェスター・シティエヴァートンで、シティの選手は〈NO WAR〉と書かれたTシャツを着用し、エヴァートンの選手はウクライナ国旗を羽織って入場。観客も〈We Stand With Ukraine〉と書かれたボードを掲げ、スタジアム全体で連帯のメッセージを示しました。

暴れん坊なサポーターさえ、この瞬間は敵も味方もありませんでした。それを見たウクライナ代表のジンチェンコ選手の涙が忘れられません。

戦争に何の意味があるんだろう。もし戦争で得をする人がいるなら、勝手に当事者同士でひっそりやってくれよ。関係ない市民を巻き込むなよ。人の命を奪うなよ……って心の底から思います。

ウクライナの方々が〈命をも省みず祖国のために戦う〉必要など一切ない平和な毎日を1日も早く取り戻せるよう、私にできる支援を、(それがどんなに微々たるものであっても)継続的に行っていきたいと考えています。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

www.fukuinkan.co.jp

 

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