FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

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田丸公美子『シモネッタのデカメロン イタリア的恋愛のススメ』|読書旅vol.24

イギリス、フランス、ドイツ、イタリアのビッグ4を筆頭に、ヨーロッパって地理的にはそれほど離れていない地域であっても各々キャラ立ちしていて、さまざまな習慣文化を湛えているのがおもしろいですよね。W杯欧州予選を眺めていても、サポーターの様子などにお国柄がはっきり出るというか。

そんなわけで、何としてでもイタリア代表にプレーオフでW杯進出を決めてほしいという願いを込め(?)、今回は田丸公美子さんの『シモネッタのデカメロン イタリア的恋愛のススメ』(2005年/文藝春秋)をチョイスしてみました。

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ちなみに、前回ご紹介した『住まなきゃわからないドイツ』の主な舞台はミュンヘンミュンヘンからミラノまでの直線距離は約400km(だいたい東京⇔大阪間くらい?)。意外と近いです。

にもかかわらず、例えばドイツを代表する高級車はメルセデス・ベンツBMW、片やイタリアはフェラーリランボルギーニ……と、車1つを見ても両国の違いはハンパじゃありません。

 

下ネタを通じて学ぶイタリア文化?

通訳/翻訳家としてキャリアをスタートさせた田丸さんにとって、雑誌『経済界』での連載をベースにしたこの『シモネッタのデカメロン』は、『パーネ・アモーレ―イタリア語通訳奮闘記』(2001年)に続く自身2作目のエッセイ。

なお、本作以降の単著にはすべてタイトルにシモネッタが付いています。〈シモネッタ・ドッジ(Simonetta d'Oggi)〉は著者のニックネーム。もともとはロシア語通訳の徳永晴美さんが愛弟子の米原万里さんに付けた呼称でした。

しかし、下ネタ好きな田丸さんのほうがこのニックネームに相応しいと判断した米原さんは、師匠からもらった名前を友人に譲渡。ここで言う〈シモネッタ〉とは、『ヴィーナスの誕生』のモデルとされる絶世の美女、シモネッタ・ヴェスプッチにあやかってイタリアではよく付けられる女性の名前に引っ掛けたダジャレです。

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言わずもがな、『デカメロン』はボッカチオの代表作。ペストの大流行から逃れてフィレンツェにステイホームした男女10人が、退屈しのぎにリレー形式で物語を語っていく全100篇のお話で、艶っぽいストーリーも多分に含みます。コロナ禍の状況と重ね、現在この古典が再脚光を浴びていると何かで見聞きしました。

もうおわかりいただけたでしょう。『シモネッタのデカメロン』は田丸さん版の『デカメロン』。イタリア人から耳にした男女の愛と性にまつわるエピソードを、60話強にまとめた1冊です。

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著者曰くイタリア語にはプライバシーに該当する言葉が存在しなそうで……。だとしても〈通訳さんにここまで己の性生活をあけすけにしゃべるなんて!〉と驚きつつ、やはりそれを引き出せたのはシモネッタの面目躍如と言ったところ?

もっとも、ベルルスコーニ元首相が発した数々の迷言失言を思い返せば、どんな相手でもどんなシチュエーションでも、わりとイタリア人はオープンにシモの話をする人が多いのかも。何にせよ、彼女/彼らの堂々たる立ち居振る舞いに、恥じらいの文化が根付く日本で生まれ育った私は、得も言われぬ敗北感を覚えました。

 

恋愛にまつわるトリビア

「イタリアではセクハラをしないのがセクハラ」と言い放つヤリ手社長から、有閑マダム映画監督売春婦などなど、ユニークな人物が登場する『シモネッタのデカメロン』。本書には思わず唸るイタリア的恋愛豆知識が盛りだくさんです。

万が一、この記事を見て読んでみたいと思ってくださった方のためにも、ネタバレになりかねない記述は避けますが、そのトリヴィアの中から興味深かったものを3つ以下に書き出してみました。

 

①年老いた雌鶏からは良いスープがとれる

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これは〈年齢を重ねた女性を美味〉という意味を持つイタリアのことわざらしいです。ことわざ、すなわち昔から言い伝えられてきた訓戒や風刺表現。イタリア人は何を伝承してきたんだか。

男性のみならず女性もアグレッシヴに生涯現役を貫いている姿勢は、本著の端々から窺えます。バカンスの季節になるや、夫より一足先にリゾート地へ赴き、若い男の子たちと××というご婦人も多い……などなど。

イギリスの大手コンドーム・メーカーが発表している『Global Sex Survey Results』によると、日本国民の年間平均セックス回数は万年最下位。一方のイタリアは同ランキングのTop5常連なのに加え、不倫が多い国ランキングでも必ず上位に食い込んでいます。

年間のセックス回数に関しては、あくまでもパートナーとの平均値。田丸さんの文章を拝見する限り、〈不倫相手との回数も追加したらイタリアが圧勝なんじゃ?〉と勘繰ってしまうレベルです。もちろん、イタリア人全員が不貞バンザイ系の人ばかりとも思いませんけどね。

 

②バッコ・タバッコ・ヴェーネレ

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日本で言う〈飲む・打つ・買う〉は、イタリアだと〈バッコ(酒)・タバッコ(煙草)・ヴェーネレ(女)〉。男のやめられない3悪も、酒と女は日伊で共通しています。それにしても〈買う〉だなんて、大和男児は浪漫の欠片もありません。

〈やめられない〉とはいえ、イタリア男性は2日酔いになるまで酒を飲まないようです。その理由は、酔い潰れると女性と夜を楽しめないから。酒は自制できても、ヴェーネレは自制できないあたりは流石ラテン民族。徹底しています。

 

スプマンテの泡で男を見極めよ

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フランスではシャンパ、スペインではカヴァ、イタリアではスプマンテ――名前は変われども、スパークリングワインがムーディーな飲み物であることは万国共通。「初めて関係を持つ時には不可欠な小道具」だと田丸さんも書かれています。

ひと通り飲み終わった後、イタリア女性はグラスに残った泡を密かにチェックし、相手を見定めているのだとか。気泡が細かく、泡がいつまでも残っているのが高級品の証。〈安物でごまかす男は信じないほうがいい〉というこの教え、めちゃくちゃ洒落ていると思いませんか?

 

アモーレの国が羨ましい?

他にもまだまだ人に話したくなる、もしくは〈いつか自分も試してみたい〉と願わずにいられないイタリア流の恋愛作法が出るわ、出るわ。

冒頭で書いたドイツとの比較で言うと、本書が書かれた当時、ネットでポルノ動画を見る時間の長さはヨーロッパでドイツが1位、対するイタリアは最下位。『住まなきゃわからないドイツ』では週末の新聞に恋人募集の広告が多く掲載される様に、著者の著熊谷徹さんも驚かれていましたっけ。

超実践型のイタリア人男性に対し、アルプス山脈を跨いでドイツ人男性は奥手なのかも。夏休みを利用してドイツからイタリアの海岸沿いに女性たちが大挙するのは、たぶんそういうことなのでしょう(どういうこと?)。

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『シモネッタのデカメロン』を読んだ最初のうちは、愛に生きるイタリア人が羨ましかったです。男性陣のマメさも、女性陣の気高さも、見習うべき点だらけ。仮にイタリアへの恋愛留学を日本で義務付ければ、少子化問題もあっさり解決するかもしれないな~と、うっすら思ったりしました(あまりにもリアリティーのないアイデアですが)。

長友佑都選手が平愛梨さんとの熱愛報道を受けて「僕のアモーレです」とコメントした時には日本全土がザワついたものの、ACチェゼーナインテルと合計8年(報道が出た時には6年目)もイタリアで暮らしたら、自然とこうなりますかね。

けれども、悔しいかな、ページが進んでいくにつれて〈年がら年中こんな状態じゃ男も女も大変だろうな〉と、自分がイタリア生まれでないことに安堵の気持ちを覚えたのも事実。淡泊なのも、情熱的なのも、行き過ぎると正直しんどい。〈何事もほどほどが一番だわ〉としみじみ思いながら、でもたぶんそれがもっとも難しいのでしょうね。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

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