FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

熊谷徹『住まなきゃわからないドイツ』|読書旅vol.23

ブンデス・リーガ日本人プレイヤーの相性が良いのはいまに始まった話じゃないですが、ヴェテランの長谷部誠選手や昨シーズンのデュエル王=遠藤航選手を筆頭に、鎌田大地選手、奥川雅也選手、原口元気選手、伊藤洋輝選手、浅野拓磨選手をはじめ、2021-2022年シーズンも侍たちが躍動していて頼もしい限り。

……なんて書き出しつつ、DAZNプレミアラ・リーガを消化するのさえままならない私は、なかなかブンデスの試合まで視聴できていません(三笘薫選手推しの我が家的にはベルギー・リーグもありますしね)。

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それでも田中碧選手の所属するフォルトゥナの日本語公式Twitterを見るたびに〈あれ? ドイツのイメージと全然違う!〉と驚き、おかげで独リーグ全体の速報も週末ごとにサラッと確認する習慣が身に付きました。

いくらフォルトゥナが日系企業の多いデュッセルドルフに本拠地を置いていると言ったって、Tweetの文面は超親日的かつフレンドリーで、投稿頻度もかなりのもの。エゴサにも抜かりなく、試合日前後にはフォルトゥナ公式が〈いいね〉した日本人サポーターの投稿も大量に流れてきます。

ということで、ドイツへの関心度激アップ中の私が今回選んだ作品は、熊谷徹さんの1997年作『住まなきゃわからないドイツ』(新潮社)。このタイミングに近所の古本屋で本書を見つけ、飛びつかないはずありません。

 

ドイツ人、好きかも!

著者の熊谷さんは1982年にNHKへ入局し、ワシントン支局勤務中にベルリンの壁崩壊米ソ首脳会談を取材されたらしいです(Wikipedia参照)。退局後はフリーのジャーナリストとして活躍し、本作を執筆した6年前にミュンヘンへ移住。東西ドイツ統一が1990年なので、その直後の大変な時期(旧東ドイツの再建に起因した経済不況など)も思いっきり被っているわけです。

当然の如くユーロ通貨が誕生する前。ここで紹介されている生活様式食文化街の景色をそっくりそのまま現在のドイツに当てはめることはできないものの、それでもドイツ人の気質などが窺い知れて、私の好奇心は刺激されまくりでした。

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ざっくりとしたドイツ人のイメージは、生真面目で理屈っぽく、合理的で決められたルールを重んじる……みたいな感じでしょうか。ドイツ・サッカーでたびたび出てくるキーワード〈ゲルマン魂〉もお堅い印象。メルセデス・ベンツの持つ格調高い重厚さにせよ、〈これぞドイツ!〉といった具合です。

だからこそ、ヌーディズムが一般化している様子に驚きました。日本語では裸体主義、独語ではFKK。どんなにドイツ(とフランス)がヌーディズム先進国といえども、ヒッピーの末裔っぽいちょっと特殊な思想を持つ方々が中心なのかと思いきや、熊谷さん曰く、年配のご夫婦から子育て世代のファミリー、若いカップルまで、ごく普通の市民が湖畔や公園(の一部区間)に敷物を広げ、さも当たり前のように素っ裸でごろり。そこにエロは一切感じないそうです。

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確かに、文章を読む限りではとことん自由でただただ牧歌的。なお、いまでもヌーディスト専用の湖やキャンプ場、ビーチが他国と比べて異様に多いのは、この本の出版当時と変わりません。

そもそもFKKって、かの地の風俗形態の呼称だと思っていた私(無知でお恥ずかしい)。超巨大なサウナ施設内をモデル級の美女が一糸纏わぬ姿でウロウロしていて、そこから女の子をチョイスし……ってやつです。

YouTubeでチラ見しただけでも物凄い開放感が伝わってきて、殿方にとってはまさしく地上の楽園!? 飛田新地堀之内といった日本の旧赤線・青線エリアとは雰囲気がまるで違います。おそらくヌーディスト文化が根付いているドイツにしか、FKKクラブは生まれ得なかったのでしょう。

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……って、〈何に納得しているんだ?〉って話ですけど、他にはバイエルンでの結婚式の話も、私が抱くドイツ人の固定観念を良い意味で裏切るものでした。結婚披露宴が明け方3~4時まで延々と続く最中に、友人が花嫁を会場の外へ連れ出し、花婿が探し当てる風習があるようです。御一行は近くのバーに潜んでいるのが通例で、花嫁を見つけた花婿はその場にいた客全員に酒を驕るのだとか。なかなかユーモアがあります。

また、オーストリアポルトガルに次いで有給休暇の長い国ドイツ(有休は年34日! これに加えて祝日も多数!!)。30日以上の有休取得率は2019年のデータで100%と、皆さん権利を遂行されているのが素晴らしいです。となると、バカンスに懸ける情熱も並大抵ではありません。

倹約家だの、合理主義者だの、生真面目だのと言われがちなドイツ人。でも、実際は私たちが思っている以上に、力の抜き方人生の楽しみ方を心得ている人々なんじゃないかと思ってしまいました。

 

25年前のドイツに日本のいまを見る?

ドイツ人の意外な気風以上に『住まなきゃわからないドイツ』を読んで私がビックリしたのは、端々で日本の現在~近未来と重なって見える部分があった点です。例えば自転車専用道路

ロンドンでは、暫定的だった自転車レーンがタクシー運転手の猛反発を跳ね除けて固定化。その成功を受け、イギリス政府が2億5000万ポンド(約380億2000万円)を投じて国内全土自転車道を整備するプロジェクトを発表したばかりです。

はたまた、ニューヨークのブルックリン橋に自転車道が開通した話題も記憶に新しいところ。パリバルセロナミラノも同様で、人流が減ったコロナ禍を利用し、一気に自動車社会から自転車社会に切り替えようとする動きが加速しています。

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対するドイツ。この本が書かれた25年前の時点で、すでにミュンヘンでは自転車道が整備され、2001年には長距自転車道も開通。コロナ前には重要な観光資源でもありました。さらに、主要10都市を交差点/信号なしで結ぶ自転車用の高速道路まで建設するというのだから、恐れ入ります。

で、日本はどうか。都内では昨夏の五輪に向けて自転車レーンの整備が急ピッチで進んでいましたが、道の狭さや交差点の多さからどうしても歩行者と錯綜したり、場所によってはもはや歩道と化していたり……(自転車歩行者道の弊害?)。

ドイツの自転車環境とはかけ離れていると言わざるを得ません。ちなみに、コロナ以降の新しい生活様式に対応するため、東京都は2030年までに自転車道路の区間延長計画をアナウンス。今後の巻き返しに期待しましょう。

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自転車道路と並んで興味深かったのは高齢化社会の問題と移民政策について。高齢化率が急激に伸びはじめた90年代以降、日本では類例のないスピードでお年寄りの数が増え、世界の高齢化ランキングでもダントツ第1位をマークし続けているのは周知の事実です。一方、日本よりも早く少子高齢化問題が取り沙汰されていたドイツは、同ランキングの最新統計で第6位(5年前までは3位)。

注目すべきは、2016年にドイツの出生率が急上昇していることです。この出生率増加は、移民の受け入れを積極的に行ってきた結果であるのは言わずもがな。そして、場当たり的に外国人労働者を受け入れてきた日本も、いよいよ大々的に門戸開放へと転じてきています。

もちろん利点ばかりじゃありません。だとしても、ネオナチ武装化など移民増加に伴う課題にドイツがどう立ち向かってきたかを勉強できるのは。間違いなく後進の特権――そんなふうに、本書の移民にまつわる章を読みながら感じていました。

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他にも、新築マンションをドカドカ立てる時代はとっくに過ぎたはずの日本と見比べ、古い建物リノベーションして大事に使い続ける姿勢に共感し(これはドイツに限らずヨーロッパ全般で言えますけどね)、環境問題に関する意識の高さに脱帽。

日本の将来を憂う声が日増しに大きくなるなか、ある面では日本の遥か先を歩んできたドイツの足取りを何となく辿ってみたら、〈けっこう楽しそう〉とポジティヴに捉えられている自分がいます。

何にせよ、ビールジャガイモパンソーセージ白アスパラガスがあまりにも食べたすぎて、読了後には〈私も春夏限定でドイツに住んでみたいな~〉と思ってしまいました(結局はどういう感想よ?)

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

 

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