熱狂的な信者を抱える一方、やたらと敵も多い旅行作家の嵐よういちさん。私自身は彼のストレートな物言いが好きですが、アンチの気持ちも理解できます。だってこの人、めちゃくちゃ口が悪いし、偉そうだし、時に初心者トラベラーをバカにしすぎるきらいがある。
今回取り上げる『海外ブラックロード 危険度倍増版』(彩図社)も類に漏れず。よって、誰彼構わずオススメするのは控えます。ただし、下手なガイドブックを読むよりよっぽど勉強になるのも事実。
何せ、嵐さんくらいの態度のデカさを備えていないと、日本人は世界でナメられる――もっぱらアジアばっかりちょこまか回っていた私ですらそう思うのですから、金を巻き上げられる以外にも人種差別を受けがちなその他の地域では、しっかり気張っておく必要があるのでしょう。
で、本書を読んで〈そんな思いまでして海外旅行したくないわ!〉って気分になるかと思いきや、これが真逆。久しぶりに読み返し、いま私は〈いつか絶対に行ってやるぞ!〉と謎のヤル気に満ちています。
海外ブラックロードとは?
『海外ブラックロード 危険度倍増版』は、2002年に自費出版された処女作を加筆し、2005年に文庫化したもの。現在は12刷までいっています。
そして、このヒットを皮切りに、南米編、アジア編、アフリカ編、スラム編などが続々と登場。地域・テーマ別で書かれた続編のほうがシュッとまとまっていて、各エリアのヤバイ特徴がわかりやすく見えてくるものの、世界中の〈ブラックロード〉を俯瞰できるシリーズ第1弾には、これはこれで他にない魅力があるとファン目線では思っています。
旅は本来、危険なものだ。ガイドブックや旅行記などを読むと、ダマされた体験やトラブルにあったことなどが書かれている。ヒドイ。何がヒドイかというと、この〈被害者〉のアホさがヒドイのだ。
こんな一節で始まる本書。身も蓋もないですね。内容は著者が海外で味わった危険な体験を軸に、旅先の日本人から見聞きした危険な話を矢継ぎ早に紹介していくといった感じ。文庫本の裏表紙をそのまま抜粋すると以下の通り。物騒が大渋滞しています。
ボンベイのぼったくりタクシー、ブダペストのネオナチ、差別の国コスタリカ、モンバサの強盗、バンコクの群犬、泥棒だらけのリマ、NYセントラルパークの変態野郎、プラハのニセ警官、エルサレムのジャップ攻撃、無法地帯ナイロビ、侮蔑的なイスラエル入国検査(一部省略)
表紙もただならぬ雰囲気。これは1998年8月にナイロビで嵐さんみずからが撮影した写真で、何とアメリカ大使館同時爆破テロが起こった翌日の現場付近だとか。ヒリヒリした空気感が素晴らしく、確か私もヴィレバンで平積みされているのを見て、まんまとジャケ買いした記憶があります。
実用書としての魅力
当ブログの冒頭で〈下手なガイドブックを読むよりよっぽど勉強になる〉と書きつつ、〈危険地帯ばかり載せているなら、あまり参考にならないんじゃ?〉と疑問に思われても無理はありません。
ジャーナリストとして紛争地域にもフットワーク軽めに訪れる嵐さんの旅スタイルは、私も含む一般人からすると難易度高め。しかし、読み方次第では思わず真似したくなる小技がチラホラ潜んでいるんです。
例えば、深夜2時にコロンビアのボゴタへ到着し、空港から宿まで1人でタクシー移動する場面。空港を出た途端に悪党ヅラのタクシー運転手10人強が取り囲んできたって言うから、想像しただけでもイヤな汗を掻きますよね。
とりあえず、そこまで目つきの悪くないドライバーを捕まえてタクシーに乗り込むも、〈どこかに連れて行かれやしないか〉と心配していた嵐さんが取った策は、コロンビアの国民的サッカー選手の名を連呼すること。すると、互いに意気投合し、目的地に着くや運転手は宿の従業員に〈この日本人は良い奴だからよろしく〉と言ってくれたらしいです。
何て素敵なエピソード! サッカー好きの端くれとして、少し胸が熱くなりました。やっぱりサッカーの力って絶大。ご当地スターやナショナル・チームのレジェンド級プレイヤーの名前は物凄く効力がありそう。中南米やヨーロッパで試してみたいテクニックです。
とにもかくにも、海外でタクシーに乗る時は、ぼったくられまいとついつい肩に力が入ってしまう私。皆さんも思い当たるフシはありませんか? そりゃ、危機感を持つのはとても大事です。
それでも、警戒の一点張りじゃなく、共通の話題を見つけて相手と打ち解けられれば、移動時間が格段に楽しくなり、仮に運賃を上乗せされてもチップ感覚で多少は気分良くペイできるんじゃないかな~と思いました(ナメた態度でぼったくられるよりかはマシって意味ですよ)。
ブスと年増に手厳しい
お役立ち情報の中でも、一部の殿方から局地的に需要が高いであろうものは、世界3大性地――ブラジルのサンパウロ、タイのバンコク、ケニアのナイロビ――のレポート。当時の相場はもちろん、どんなシステムの店があって、ランク付けはどうだとか、どういう日本人がモテるのか……などなど、この1冊でざっくりした基礎知識は詰め込めます。
とりわけサンパウロのボアッチ(ナイトクラブ)についてもっと掘り下げたくなった方は、本書の次に2014年作『ブラジル 裏の歩き方』を手に取ってみてください。恥じらいをベースにした日本の性文化とまるで違う様相には、衝撃を通り越して感動を覚えました。
女性の話が出てきたついでに、嵐さんはブスと年増に手厳しいです。世界3大性地のくだりでも、ブスで年増な売春婦を徹底的にこき下ろしています。また、本文中に書かれた、海外によくいる日本人女性に関する説明がこれですからね。
日本の女の子は軽いと世界中で耳にしてきた。〈商売〉してるならともかく、タダでヤラして日本の恥をさらしている。日本人女性は基本的に外人が好きだ。たまにカワイイ女もいるが、基本的にモテなく、モテたことのない人がかなり多い。
どうですか? ヒドイでしょ? アンチたちはこういう点が気に喰わないようです。〈何様だよ!?〉とか〈外見差別だ!!〉とか〈偏見がすぎる!!〉とか、云々かんぬん。
確かに〈そこまで言い切らなくても……〉と思う反面、バリ島でその手の日本人ギャルは大勢見てきましたし、海外まで行かずとも米兵狙いで横須賀のクラブに通っていた知り合いもいるので、チョロいという面ではあながち間違っているとも思いません(※だけど、嵐さんと違ってそういう女性を否定する気もありません)。
仮に公共の電波でこういう発言をしようものなら大炎上は必至でも、これはお金を払わなきゃ読めない書籍。〈著者が素直に自分の考えを綴って何が悪いんだろう。嫌なら読まなきゃいいじゃん〉と嵐さん側を擁護してしまう私は変ですか?
なお、ブスで年増な私が読む限りでは、ボロクソ言ってもらえてむしろ清々しかったです。さらに、私だってどうせ遊ぶなら程良くマッチョで笑顔のステキな高身長のヤングなイケメンが良いです。これも差別発言にあたるのかしら。
何にせよ、名指しで批判しているわけでもあるまいし、このくらいは好き勝手に言える世界であってほしいです。
……といった具合で、万人ウケする本ではなく、そもそも著者自体が万人ウケなんぞ1mmも狙っていません(たぶん)。本当に挑発的です。それを承知のうえ、メンタル面もフィジカル面も何かと窮屈ないまの状況下で読むと、案外スカッとした気持ちになれますし、海外旅行ならではの緊張感を疑似体験できます。
最後に、この記事を見て〈読んでみたいな~〉と思ってくださった方へ(いるかな?)。ページをめくる前に、正義とかモラルは一旦脇に追いやってくださいね。
※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。
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