FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

岡本まい『危ない世界の歩き方 危険な海外移住編』|読書旅vol.42

〈海外を旅行する〉のと〈海外で生活する〉のとではまったく勝手が違います。よって、〈旅の本を紹介する〉と謳っている以上、本来はそのあたりを明確に区別すべき。直近の2作品も、星野道夫さんの『旅をする木』や熊谷徹さんの『住まなきゃわからないドイツ』も、厳密に分けると、いわゆる旅の本ではありません。

自分でも選書基準のいい加減さには薄っすら気付いていました。だけど、〈私の旅欲を掻き立ててくれるんだから、それはもう旅の本でいいのだ!〉と、なぜかバカボンのパパ口調で言い訳しつつ、引き続き素知らぬ顔して旅エッセイの中に海外移住本も混ぜていきたいと思います。

 

ジャマイカって何なんだよ!?

そんなこんなで、今回も自宅の書棚にある移住について書かれた本から、岡本まいさんの『危ない世界の歩き方 危険な海外移住編』(2013年/彩図社)をピックアップ。当ブログでオカマイさんの作品を取り上げるのは、これが2回目です(※著者の略歴などはこちらをご参照ください)。

f:id:emi13_farout:20220226143019j:plain

若い頃から世界各地を放浪していたオカマイさんは、何気なく訪れたジャマイカに心を奪われ、2008年に首都キングストンへの移住を決行。

本作には、家の契約をはじめとした何気ない日常の様子はもとより、国中で派閥同士の銃撃戦が激化する選挙期間、日本でもニュースになった大型ハリケーンの〈Sandy〉襲来時、国家緊急事態宣言の発令にまで至った麻薬王ドドスの逮捕劇などなど、タイトル通り危ないエピソードがわんさか登場します。

f:id:emi13_farout:20220226143328j:plain

『Average total all civilian firearms』で発表されたジャマイカ保有100人あたり8.8人。しかし、実際はもっと多いんじゃないかと私は予想しています。オカマイさんも本編で以下のように書かれていました。

ジャマイカ銃社会だ。銃を持っていない人のほうが少ないのではないだろうか。驚くべきことにジャマイカ人は13、14歳にもなると自分で銃を作りはじめる。上手くいかずに暴発して指がぶっとんだんだと4本しかない手をひらひら振りながら見せてくれた知り合いもいる。

そう言えば、昔付き合っていた人がジャマイカ偽警官に銃を向けられ、山奥の小屋で監禁されるという事件に巻き込まれました。ジャマイカ帰りに空港で落ち合い、その足でタイへ旅行する計画を立てていた私たち。

帰国寸前に突如メールが途絶え、ゲストハウスに問い合わせるも行方不明だと知らされた時は、頭の中が真っ白になりましたっけ。

f:id:emi13_farout:20220226143442j:plain

ほかにも、ダンサーの女友達がレイプされかけただの、男友達がポケットを切られて財布を盗難されただの、ホテルの部屋に裸の女がいきなり入ってきて金をせびってきただの、知り合いから聞くトラブル事例はどれもこれもなかなかにハード。

〈ジャマイカっていったい何なんだよ!?〉と思ったまま、ビビリな私は行かずじまいで現在に至ります。

 

ダンスホール・レゲエの背景

私がもっとも熱心に追いかけてきた音楽ジャンルはダンスホール・レゲエです。ジャマイカ人にとって最大の娯楽であると同時に、古くは情報交換の場としての役割も担っていたダンスホール

その時々のヒット曲には時事ネタ(他愛ないゴシップも含む)がふんだんに盛り込まれています。

f:id:emi13_farout:20220226144144j:plain

マイクを握るDeejayたちは〈ただ日々の出来事を歌にするだけじゃ芸がない!〉とばかりに、時には文字にできないほど卑猥だったり暴力的だったりする表現も交え、オーディエンスを沸かせてきたのですが、その音楽の背景にあるジャマイカお国柄、人々の暮らしぶり恋愛観が覗き見できる点も、私が『危ない世界の歩き方 危険な海外移住編』にハマった大きな理由。

例えば、婚姻率が低いジャマイカ。女性陣は口を揃えて、〈男はよそで女を作るから結婚しないし、信用できない〉と言うらしいです。でも、彼女たちはアグレッシヴに恋愛を楽しみます。

今年のグラミー賞にもノミネートされている現行ダンスホール・クイーン、SPICE爆裂エロ曲が同性から軒並み絶大な指示を得てきたのもジャマイカならでは……なのかも(わかりやすい例として、彼女のブレイクを決定付けた“So Mi Like It”のリンクを貼っておきます)。

www.youtube.com

ちなみに、ジャマイカ人女性の多くが結婚に夢を見ないだけで、母になる夢はきっちり叶えています。80~90%の子どもが母子家庭で育つとも言われ、ベビーファーザーはたまに顔を見せにくる程度。

どおりで、レゲエ・シーンでは母親への感謝とリスペクトを込めたママ・チューンがたくさん生まれるわけですよね。女性管理職の割合が世界トップクラスの高さを誇るのだって、裏を返せば男性たちが頼りないとも言えそうです。

 

ラスタとのあれこれ

レゲエと聞いて、多くの人が真っ先にBOB MARLEYのようなドレッドヘアのラスタマンを思い浮かべるのではないでしょうか。欲まみれな俗世間からは一定の距離を置いたラスタとの交流も、本書の大きな見どころです。

ラスタファリズムについては、『ラスタファリアンズ―レゲエを生んだ思想』(1977年/平凡社)をはじめ、数々の名著が日本語にも翻訳されています。

ただし、そもそもが〈ラスタファリズム人生観哲学〉の話なので、正直ちょっと小難しい、または説教臭い方向に偏りがち。

f:id:emi13_farout:20220226145033j:plain

一方、超フラットに、それこそ日本生まれのイケイケな女子目線で、ラスタマンから得た学びを率直な驚きと共に綴っているオカマイさん。これは非常に共感&納得できます。

彼らの掲げる自然主義とはどのようなものなのか、なぜ菜食を貫くのか、あの独特な言葉遊びは何なのか、どうしてマリファナを溺愛しているのか――そうしたラスタファリズムの根っこの部分を、この本でざっくり掴める気がします。

f:id:emi13_farout:20220226145638j:plain

ラスタに興味のある方はまず『危ない世界の歩き方 危険な海外移住編』で要点を把握し、その後にアカデミックな文献と向き合うのがオススメ。

もちろん、そこまで突っ込んで学ばなくても、本書を介してあらかたの思想言葉選びの基本ルールさえ頭に入れておけば、ラスタ系シンガーの歌うリリックがますます楽しめること間違いなしです。

 

ジャマイカは意外と身近!?

日本は世界有数のレゲエ大国とも言われていますし、ドン・キホーテみたいな全国規模のディスカウントショップにもラスタカラーのグッズが置かれています。

さらには、JAで始まる国名がいまのところJAPANJAMAICAのみで、オリンピックなど国際大会の開会式でもこの2国は隣に並びがち。案外、ジャマイカ身近に感じる機会は多いと思います。

f:id:emi13_farout:20220226145302j:plain

とはいえ、生活スタイルも、ものの考え方も、時間の感覚も、やっぱり日本とは全然違います。本当に無茶苦茶です。『危ない世界の歩き方 危険な海外移住編』を読み返すたびにそう感じます。

それなのに、その無茶苦茶ぶりも全部ひっくるめて、ジャマイカという国がより愛おしく思えてくるから凄い。オカマイさんの深いジャマイカが読み手の私にまで伝染していることは言うまでもありません。

ぜひたくさんの方に本著を読んでいただき、日本にもっとジャマイカ好きレゲエ好きが増えてほしいな~と考えています。まあ、〈一度も行った経験がないくせして、何を偉そうに言っているんだ?〉って話ですけどね(苦笑)。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

www.saiz.co.jp

 

【お知らせ】東南アジアで買い付けてきたアイテムを販売中。春夏は水着やリゾート服を中心に、秋冬はアクセサリーを中心にラインナップしています。ぜひチェックしてみてください。

farout.theshop.jp

 

ランキング参加中。ぽちっとしていただけたら嬉しいです。

にほんブログ村 旅行ブログへ
にほんブログ村