FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

宮田珠己『わたしの旅に何をする。』|読書旅vol.103

3回連続で宮田珠己さんのエッセイに関する感想文の投稿です。何かすみません。しかも、近作ならまだしも、すべて20年以上前に書かれた作品ですが、どうか引き続きお付き合いください。

 

サラリーマン時代の雄姿

今回は、2000年に刊行され、そこから7年の時を経て文庫化に至った4作目『わたしの旅に何をする。』(幻冬舎文庫)をピックアップ。

ベースとなるのは、前回の『ときどき意味もなくずんずん歩く』と同じく、雑誌『旅行人』での連載です。本編の始まりは以下の通り。

私はついこの間までサラリーマンであった。結局退職したのだが、ええぃ会社なんか今すぐ辞めてやる、そうだ、今すぐにだ、という強い信念を十年近く持ち続けた意志の堅さが自慢である。

構成は『有給の旅人』『旅立ちと陰謀』『旅人人生大器晩成化計画』の3部仕立て。第1章では有給を使って可能な限り大型連休を引き延ばし、全力でヴァカンスに興じる、まったく空気の読めない、もとい、己の決めた道を力強く邁進する、勤め人時代の勇敢な姿が確認できます。

ある時は「8泊9日しか休みがとれない……」とぼやきながら、帰りの便が確約できていない状態にもかかわらず、最悪の場合は無断欠勤も辞さない覚悟で上海杭州無錫を周遊。

また、ヒマラヤへトレッキングしに行った際には暇を持て余したにさっさと眠ってしまおうと床に入るも、なかなか寝付けず、“私はだんだん仕事がしたいような気さえするようになった。悲しいことにサラリーマンの私にとって、そえが退屈を紛らわし、かつ眠くなる一番いい方法なのであった”との真理に辿り着くのでした。

……と、まあ、ナメ腐っています。よくぞこの調子で10年近く会社勤めできましたよね。当時の上司同僚の方々の器の大きさに心から感服いたしました。

 

脱サラして旅行エッセイストへ

第2章の『旅立ちと陰謀』は、脱サラして間もない時期の話。陰謀といっても物騒なものではなく、気のせいレヴェルですのでご安心を。

入国審査の列が自分のところだけ異様に進まないとか、機内エンターテインメントをチェックすると興味のある映画は大抵よその便だとか、バゲージ・クレームでいつも自分の荷物は出てくるのが最後のほうだとか、ほぼほぼ言いがかりです。

続く第3章は、第2章のさらにその先の未来(※雑な説明でゴメンナサイ)。作家として生計を立てられるようになるまでの経緯や、相変わらずさまざまなトラブルに巻き込まれ、ままならない道中の様子が、独特の筆致で綴られていきます。

ご本人曰く、本著は“たいした将来の見通しもなく会社を辞め、とりあえず旅行しまくりたいと考えた浅薄なサラリーマンのその後”を描いた作品とのこと。文庫版のあとがきにはこう記されています。

この本を自分で読み返してみて、フリーになるのを躊躇していたサラリーマン時代の心境が、ひさしぶりによみがえってきた。そんな逡巡の若々しさがまぶしいけれど、今にして思えば、フリーになって住宅手当がなくなっても、明日の仕事があるか定かでなくなっても、サービス残業で倒れることを思えばはるかにマシだと断言できる。みなさん、働きすぎて死なないように。

不覚にも(?)めちゃくちゃ響きました。現在の生活を楽しめていない、もしくは、夢があるのに最初の一歩を踏み出せない方には、ゴリゴリにオススメしたい一冊です。

 

一歩踏み出しちゃう?

宮田さんは就職難易度の高いリクルートで働かれていた、世の中的に見るとエリートの部類に入る人物。実際に軽い気持ちで退社されたか否かはわからないものの、そこはあえて文面をそのまま素直に受け取りましょう。

で、これくらい軽いノリで人生の一大決心をしちゃってもいいんだなと思えば、いま抱えているモヤモヤだってきっと晴れるはず。ともすると、ほんの少し背中を押してくれるかもしれません。

かく言う私も、2019年に前職を離れるタイミングで再読しました。遠回りしすぎて、まだ目標到達には程遠く、5年経ってもなお、うだつの上がらない日々です。だけど、固定の仕事を辞めた決断自体に後悔は一切なし。

とはいえ、この記事をアップしたのは5月中旬。GWが終わり、五月病が最高潮に蔓延しているシーズンです。

特に新入社員や2~3年目の若手社員の皆さんは、うっかり本書を真に受けすぎると痛い目に遭う危険性がある旨も最後にチラッと注意喚起しておきます。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

www.gentosha.co.jp

 

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