FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

春間豪太郎『草原の国キルギスで勇者になった男』|読書旅vol.100

前回の『グレートジャーニー 人類5万キロの旅1 嵐の大地パタゴニアからチチカカ湖へ』にて冒険欲が刺激された流れで、今回は『草原の国キルギスで勇者になった男』(2020年/新潮社)をピックアップ。

 

ニュータイプの冒険家

まず本書を執筆された春間豪太郎さんがかなり独特なキャラの持ち主なんですよ。ギフテッドである彼の少年期はあまりパッとせず、両親とも不仲。プロローグにはこう綴られていました。

冒険以前のおれはというと、子どもの頃からずっと、人生がつまらないと思いながら過ごしてきた。周りと比べて自分がどうしようもなく劣っている上に、罪まで背負っていると思っていたからだ。

転機が訪れたのは大学2年の春。フィリピンで消息不明になった友人を、半年前の住所と写真のみを手掛かりに捜索したのがきっかけで冒険に開眼。

そして、大学卒業後はラクダに乗ってアフリカ砂漠の横断を試みます。その際、得意のプログラミング・スキルを活かし、専用の地図アプリやラクダの発信機を開発してエジプト入りするも、イスラムの通行規制により当初の計画は頓挫。

しかし、転んでもただでは起きない春間さんは気持ちを切り替え、ラクダ飼いの見習いとして遊牧生活を始め、その後はロッコへ渡り、ロバに荷車を引かせて約1000kmの旅を敢行。

猫や鶏や犬も仲間に加えた春間さんのキャラバンは、SNSを通じて話題を集め、記念写真の撮影や卵の販売でビジネスにも成功しちゃっています。

このキャラバンを率いたロッコが著者のイマジネーションをさらに刺激。幾多の困難を乗り越え、どんどん旅のスキルが上がっていく感覚は“まるでゲームの世界に迷い込んだかのようだった”とのことで、こういう種類の旅を著者みずからリアルRPG命名

お次は小学生時代にはまったゲームソフト『ゼルダの伝説 時のオカリナ』の世界観を体現せんと、リアルRPGの舞台をキルギスに移すのでありました。

 

まさしくリアルRPG!

『草原の国キルギスで勇者になった男』は、との旅を記録した第1章、イヌワシ使いとの共同生活を描いた第2章、を連れて雪山越えの野宿旅に挑んだ第3章から成る3部仕立て。

キルギスに行く前は乗馬未経験だった点にも驚きましたし、羊にしたって彼らは群れをなして暮らす生き物です。一応、1匹じゃなく2匹を連れて最小限の群れを形成したのはいいけれど、いずれにせよ人と意思疎通を図るのは困難なはず。どう考えても無謀な挑戦です。

ただし、出発前に日本でホームレスになりながら(!)医療技術を学び、動物の生態に関する知識を習得。実践経験ゼロでも理論面は申し分なし。無鉄砲なのか、用意周到なのか、よくわからないゴチャついた感じが凄まじいです。

道中さまざまなアクシデントに見舞われるものの、これまでに得たスキルや知恵をフル活用し、目の前に立ちはだかる課題をクリアしていく様が痛快。

獣医もお手上げだった馬の不調の原因を根気強く突き止めたり、羊がオオカミの餌食になるのを防ぐため耳だけ起こして目と脳を休ませる妙技でマイナス14度の夜を明かしたり……。

また、とくにかく動物愛に溢れていて、共に冒険した馬・羊・犬を単なる期間限定の仲間や旅の道具みたいに捉えるのではなく、冒険が終わって後も各々が幸せに暮らせるよう引き取り手探しに尽力。2年後には彼らの様子を見に、キルギス再訪しています。

 

即ファンになりました

あまり細々書くとネタバレになってしまうので、これ以上は自粛しますが(いや、もう十分書きすぎちゃったかな)、とにかくおもしろい! 出てくるエピソードがことごとく強烈です。

だけど、「俺って凄いでしょ?」といった自慢げな印象はなく、超レアな体験談なのになぜか共感している自分がいて、気付けばリアルRPGの世界に没頭。一緒にハラハラドキドキしていました。

世界広しといえども、おそらくいままで誰もチャレンジしなかった旅のスタイルを題材にして、巧みな文章でまとめ上げる――こんなの悪くなるわけがないです(※この人、めちゃくちゃ文才があります)。

白状すると、高野秀行さんによる帯文に惹かれて本著を手にするまでは、春間さんの存在すら知らなかった私。でも、一発で虜になりました。

昨年はリャマとアルパカ2匹と子犬を相棒にアンデス山脈を踏破したとか。その模様の書籍化を熱望しつつ、とりあえずいまは『草原の国キルギスで勇者になった男』を読了するやポチらずにはいられなかった、フィリピン・エジプト・モロッコ旅を綴った処女作『リアルRPG譚- 行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』(2018年/ベストセラーズ)を読んで、引き続き春間さんワールドに浸りたいと思います。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

www.shinchosha.co.jp

 

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