引き続きバンコクのWat Suthat Thepwararam(ワット・スタット・テープワラーラーム/วัดสุทัศนเทพวราราม ※略称のワット・スタットで通じます)のお話です。
寺院の概要と正攻法の楽しみ方についてご紹介した前回の記事を経て、今回は若干ニッチな層に刺さる裏の楽しみ方をお伝えしたいと思います(※ページの最後に、Wat Suthatと合わせて参拝したいバンコク屈指のパワースポット情報もあり)。
地獄の壁画とは?
1807年に着工したWat Suthatは、バンコクに10か所しかない第一級王室寺院の1つ。格調の高いお寺です。ともすれば、定番を嫌う珍スポット好きは避けてしまいがちなんじゃないでしょうか。
しかし、Wat Suthatでは地獄寺フリーク垂涎のお宝が見られます。それが地獄の様子を描いた壁画。私も壁画を目当てに再訪しました。
そもそも地獄寺とは、下掲の写真のような立体像で地獄を表現したスペースのある寺院。椋橋彩香さんの著書『タイの地獄寺』(2018年)によると、1950年代半ば頃からタイ全土で造られはじめたそうです。
3Dの地獄空間が誕生する以前は、僧侶の説法や壁画が民衆に地獄思想を広める重要な媒体だったとか。つまり寺院に描かれた地獄の壁画は地獄寺の前身なわけです。
おそらく昔はたくさんの寺院で地獄の壁画が見られたはず。ところが、建物の老朽化や雨漏りが原因で、ほとんどの壁画は激しく損傷しているか、消滅してしまっているんですって。
日本の仏教界隈は年季の入った造形品ほどありがたがる傾向が強いのに対し、人々の生活と仏教が密に絡むタイでは「時代の流れに合わせて仏教美術もモダンに刷新するほうがイケてる」みたいな価値観がガッツリ根付いています。
おかげでユニークな進化系寺院が各地に点在。地獄寺はその好例だと思っています。何はともあれ、いまなお古い壁画が保全されているのはけっこうレア。
第一級王室寺院だからこそ、流石のタイ人も過度な修繕や改装は行わなかった(行えなかった?)のでしょう。
右後ろ側の柱に注目!
Wat Suthatの礼拝堂には、建立当時のバンコクの風景や仏教の説話画が隙間なく描かれていて、そのうち地獄の壁画は六道輪廻の考えを可視化したセクションの一部です。具体的な場所は大仏に向かって右後ろの柱。
「現世で悪さしたら死後にこんな責苦が待っていますよ」と人々に説く役割を、長きに渡り果たしてきました。
邪淫の罪を犯した者が登らされる棘の木や、切断した手足と頭蓋骨を薪代わりにくべた地獄釜といった地獄寺の定番モチーフも確認できます。
亡者の身体に点々とつけられた小さな炎は業火。その業火に苦しむ猛者のなかには獣頭人身も混ざっていました。この獣頭人もWat Phai Rong Wua(ワット・パイロンウア/วัดไผ่โรงวัว)やWat Phut Udom(ワット・プートウドム/วัดพืชอุดม)をはじめ、多くの地獄寺で3D化されています。
Wat Suthat周辺は地獄絵の宝庫!?
Wat Suthatへの行き方は、MRTサムヨート駅の3番出口からジャルンクルン通りを約50m直進。ウナカン通りを右折し、300~400m歩いたあたりが目的地です。
また、カオサン通りからも1km強。民主記念塔の交差点を右折し、ディンソー通りを真っ直ぐ進むと、真っ赤な巨大ブランコの立つ正面ゲートへ出ます。
ちなみに、カオサン通りの徒歩圏内には、Wat Saket(ワット・サケット/วัดสระเกศ)とWat Dusidaram Worawihan(ワット・ドゥシッターラーム・ウォラウィハーン/วัดดุสิดารามวรวิหาร)でも年季の入った地獄の壁画が残っています。
先述した「古い壁画が保全されているのはけっこうレア」に嘘偽りはないんですけど、旧市街のこの近辺に限っては、ちょくちょく地獄の壁画が存在。
特に2THB硬貨の裏面デザインに採用されたWat Saketは、Wat Suthatから歩いて10分程度の距離で、そのままハシゴするのも簡単。規模も大きく、眺めも良く、地獄の壁画以外にも観どころが多いです。
お寺の隣には効果絶大なパワースポットも!
これより先はおまけ情報。前回のページで載せ損ねてしまい、無理矢理ねじ込みました。Wat Suthatへ行かれた際は、すぐ隣のVishnu Shrine(ヴィシュヌ神社/เทวาลัยพระวิษณุ)もぜひ参拝してみてください。
Vishnu Shrineは、チットロムのErawan Shrine(エラワン祠/ศาลท้าวมหาพรหมเอราวัณ)やフワイクワンのGanesha Temple(ガネーシャ寺/เทวลัยพระพิฆเนศ)と並ぶバンコク屈指のパワースポット。
Wat Suthatのロケーションは、国内最大のインド人街=パフラットの目と鼻の先です。そうした縁で、タイ・インド商工会議所がバンコク遷都200年を記念し、王室への敬意を込めて第一級王室寺院であるWat Suthat近くにヴィシュヌ像を寄贈。以降、民族の垣根を超えて地元の方から厚い信仰を集めてきました。
でも、ローカルが激推ししているわりに、外国人観光客の間ではあまり知られていない穴場です。富や名声に関するご利益が信じられていて、人気者になりたい人やお金持ちになりたい人、キャリアアップしたい人向け。
なお、貪欲はタイの地獄思想のベースにある『三界経』で十悪に数えられています。よって、地獄の壁画を見た直後の私は己の欲を封印。ヴィシュヌ様にはお願い事をせず、ご挨拶と見学だけに留めました。実際の効果は各自でお確かめあれ。
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