FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

冬野花『インド人の頭ん中』|読書旅vol.69

直近で紹介した作品には、たびたびインドの話が登場します。旅人たちを魅了してやまないインド。〈行けば人生観が変わる〉と言われるインド。

マミヤ狂四郎さんはバラナシについて〈さすがに聖地なだけあって、神聖なる動物として崇められている牛は野放しで小便&糞ひり出しまくり。と同時に、それらにつられて老若男女問わぬ人間様も道端で小便&野グソしまくりで、ついでに犬も猫もウンコ&シッコしまくりとくれば、街の中はむせっかえるようなアンモニアの香りで充満。街全体が便所のような感じである〉と説明(※詳しくはこちら)。

続いて、宮田珠己さんは〈列車に乗れば、指定席である私のベッドに勝手に入って来て、一晩中横に寝てる奴が二人ぐらいいる。一つのベッドに野郎三人で寝たのだ。指定席なんて買ったってしょうがないわけである。それ以外にも値段はふっかける、釣りはごまかす。本当にどうしようもない〉と綴られていました(※詳しくはこちら)。

さらに、インド関連の書籍を多数出版されている蔵前仁一さんに至っては、人生初のインド旅を終え、〈もう二度と来ることはないだろう。バラーナス(バラナシ)で出会った旅行者の話は衝撃的だったが、それにしてもインドはあまりにもハードだった。腹が立つことが多すぎる。物価が安いのはいいが、何を買うにも交渉し、余計な金をふんだくられ、約束は守られない〉と回想(※詳しくはこちらとこちら)。

これらを読んで〈いや~、インドって本当に素晴らしいところですね〉となるはずはなく、不潔不真面目で油断も隙もあったもんじゃない同国になぜ皆さん足繁く通い詰めるのか、バックパッカーという生き物は揃いも揃って変態なのか、そもそもインド人は何でそんななのか……私の頭ん中は疑問でいっぱいになりました。

 

いかにも厄介な国

そこで、今回はインドに特化した本を選んだ次第。表題はズバリ『インド人の頭ん中』(2009年/中経出版)。私の疑問にもバッチリ答えてくれそうな予感です。

ちなみに、この本は長らく積読していた作品で、著者の冬野花さんに関する予備知識も一切持っていませんでした。

何でも冬野さんは2度のインド旅を経て、目的も土地勘もツテもないまま、2004年にニューデリーへお引っ越し。旅から戻って半年後のことです。

いかにも厄介そうなこの国を「好き」と明言する勇気は到底なかったが、とにかく気になったのだ。

〈インドがたまらなく好きだから移住しました〉的な雰囲気でもないところが凄い。しかも当時20代の女性がたった1人で! 冬野さんもまたド変態、もとい、飽くなき探求心好奇心を持った方なのでしょう。

 

インド人は不真面目なのか?

そこら中にさまざまな生き物(ヒトも含む)のが落ちている点や、リキシャに乗るにも野菜を買うにもいちいち値段交渉しないといけない点をはじめ、バックパッカー系の旅エッセイには必ずといっていいほど登場するインドならではの厄介事も、当然しっかりと紹介されています。

しかし、旅行者として接するインドと生活者として接するインドでは、エピソードの密度が違い、旅行記以上に日本の常識では考えられない体験談のオンパレード。

物件探しの大変さや、室温で納豆を作れてしまうほどの酷暑※納豆菌を発酵させるには40~50度の温度が必要)もさることながら、随所で確認できるカースト制度の実態に、う~んと唸らされました。

例えば排水口が詰まって配管工を呼んだ場合、配管工の仕事は配管の修理のみ。排水口の詰まりさえ直れば、あとは部屋が汚れようともお構いなしです。片付けは清掃業者の範疇になるとか。

カースト制度というのは、非常に細分化された身分制度で、最終的には職業ごとに身分が分れる。掃除屋カースト、床屋カースト、商業カースト、と言う具合に。

インド人は、ほかの人の仕事はしない。(中略)ゴミ屋はあくまでもゴミ屋であって、ゴミを集めるのが仕事だから、それしかやらない。

「ゴミが置いてあった場所が汚れていても、それは掃除屋の仕事。だから、俺たちは関係ない」という現象が、インドには定着しているのである。

噂では聞いていたけど、本当にこういう感じなんですね。24時間対応してくれるクラシアンなら小1時間で解決する水回りのトラブルも、そりゃ、平気で2~3日掛かるわけですよ(もっとも、日本は日本でサービス過剰だと思いますが……)。

配管工や掃除業者に限らず、リキシャマンにせよ、ツアーガイドにせよ、テルマにせよ、〈無知な観光客から金をふんだくろう!〉とかではなく、定価を設けるなり、サービスを手厚くするなりして、〈ひとり勝ちするぞ!〉と目論む人たちが、どうしてさほど出てこないのか。

カースト制度によってここまで細かく職業が分かれていたら、上昇志向も削ぎ取られてしまうんでしょうかね。ちょっとあれこれ考えてしまいました。

 

スペック重視の上流社会

片や上流階級の人々はどうかと言うと、これもまたけっこう面倒臭い。ムンバイに住む老夫婦(旦那さんは国鉄幹部の元軍人)の家にホームステイした際、〈女性のひとり歩きなんぞとんでもない〉と冬野さんは軟禁状態にされてしまいます。

このご夫婦が生真面目かつ律儀。良識の塊みたいな方々で、一連のバックパッカー旅行記で植え付けられたインド人のイメージが180度覆されました。どうやらカースト上位の人々は、こういう堅物タイプが多いらしいです。

ところで、インドは男尊女卑社会。男尊女卑と言えば聞こえが悪いものの、表現を変えると、弱者である女性を徹底的に守るのがインド式です。

著者のインド人彼氏も、荷物を持ってくれたり、行列に並んでくれたり、長距離移動の休憩中に飲み物を買ってきてくれたり、寝台列車で寝具を整えてくれたり……もう至れり尽くせり。

なお、婚前の男女交際をよしとしないインドでは、マッチング・サービスを含む広い意味でのお見合い結婚がまだまだ主流。以下は、文中に出てくる結婚相手募集の求人広告サンプルです。どれもこれも内容は似たり寄ったりだとか。

“色白で、長身で、世界的に知られた大学でMBAを取得済みで、父親は有名な会社の重役で、年収が○ルピーで、厳格な菜食主義者の二十四歳のラージプート(カーストのひとつ)ボーイで、同じく菜食主義で、家庭的で、外見が美しく、由緒ある家柄の花嫁を募集中”

“色白で、スリムで、類まれに美しく、高学歴で、家庭的な、ハイステータス・ビジネスファミリー出身の二十三歳の花嫁、同等のハイステータス・ビジネスファミリーの高学歴の花婿募集中”

上流の証である色の白さをまずアピールし、その後も趣味性格についての言及は最後まで一切なし。とにかくスペック重視。〈奥ゆかしさの欠片もないな〉と思う反面、ここまであからさまだと、かえって清々しく思ってしまう自分がいました。

こんな調子なので、初対面の人たちとのちょっとした会話も、家族構成父親の職業役職(時には年収)のことばかり。〈その人自身が何者なのか?〉は二の次、三の次。かなり露骨ですよね。

 

結局、インドって何?

日本も階級社会に移行しているとはいえ、超お金持ちからド貧乏まで、インドの振れ幅はハンパじゃないです。で、明確に階層が分れているのに、バクシーシの風習を例に挙げるまでもなく、物乞いも社会の一員として逞しく暮らしているという確かな現実。

いまも根深く残るカースト制度の良し悪しは一旦置いといて、いろいろなものが混然一体となった様相に凄まじいエネルギーを感じました。

まあ、結果的に『インド人の頭ん中』を読んでも、私の頭ん中の疑問は増えていく一方。ただ1つ、〈インド人はこうだ!〉とか〈インドってこういう国だ!〉って一言で表せるようなものじゃないことは、薄っすらわかりました。

と同時に、ここへきて蔵前仁一さんの言葉〈あらゆるものがインドにはある〉が、少し理解できた気も……。インドってホントに何なんですかね。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

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