FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

白石康次郎『七つの海を越えて: 史上最年少ヨット単独無寄港世界一周』|読書旅vol.35

数々の記録を打ち立ててきた海洋冒険家白石康次郎さん。彼の著書やインタヴュー記事を読んでいると、こちらまで元気がモリモリ湧いてきます。

今回ご紹介する『七つの海を越えて: 史上最年少ヨット単独無寄港世界一周』(2000年/文藝春秋)は、サブタイトルにもある通り、白石さんが世界最年少で単独・無寄港・無補給の地球1周に成功した時の航海記録。白石伝説の幕開けを飾る大冒険の一部始終がまとめられた1冊です。

 

船上での生活

当時26歳の白石さんが世界1周に要した時間は176日3時間59分。そもそも人間は社会という名の群れを形成しながら陸の上で暮らしてきた生き物です。

それなのに約半年間もたった1人波に揺られ続けるなんて……。すぐに船酔いする私は想像しただけで途方に暮れてしまいます。

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お世辞にも上手いとは言えない俳句夏井いつき先生だったら漏れなく凡人or才能ナシ査定しそう)を幾度も読んでは孤独を紛らわせたり、即席味噌汁の具に入っている野菜の緑色に驚いたりする様が生々しいの何のって。そうか、無寄港の航海中に見える景色はのみ。植物は繁殖していません。だから大海原ではフリーズドライ野菜の色すら新鮮に映るわけですね。

生きた植物の緑が一切ない他にも、何もかも陸地とは勝手の違う船上での日々。清水はとても貴重で、洗髪はスコールを利用し、茹でた後に水でさらさなきゃいけない蕎麦素麺は大御馳走だとか。出航前に日本で洗ったタオルを引っ張り出した時の感動もそうとうなものです。爽やかな洗剤の薫りふわふわした手触りを伝える描写に、読者の私も思わずウットリ。

また、日本に戻ってしばらくのうちはテーブルに置いた湯呑みが倒れないことや、便器が動かずおとなしくしてくれていることなど、些細な出来事に幸せを覚え、感謝していたと綴られています。非日常を味わうのが旅の醍醐味だとすると、ヨットでの単独航海は究極の旅行スタイルかも。

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もちろん、苦労話ばかりじゃありませんよ。周りに何もない大海のド真ん中で見る夕焼け朝焼けがどんなに美しいか。夜空も然りです。

“夜空に天の川がよく見える。太平洋上では、毎日織姫と彦星がデートしている。ヨットを始めた頃、僕は、この満天の星空を飽きずに眺めてはよく感動していたものだ”

“夜には、三日月が映った静かな海を眺めながらデッキに寝そべってみた。そしてクラシック音楽を聴いた。ドビュッシーの「月の光」やショパンの「別れの曲」を聴いた。すると、目の前にある実際の月の光がピアノの音にとてもよく似ていると思った。月の光が海面いっぱいに輝き、光がまるで海の鍵盤を弾いて音を出しているようだ。実に不思議で美しい”

ヨット乗りの中には夜を怖がる人も少なくないらしいです。確かに、星と月の光以外は何も見えない、なおかつ途轍もなく広い空間で〈恐れるな〉というほうが無理な話。私が思い描いたイメージは、宇宙にポツンと投げ出された映画『ゼロ・グラビティ』みたいな感じでした。

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そうしたシチュエーションでも、恐怖感より大自然美しさに心を動かされる白石さんに感服。メディアで見聞きする白石さんは、超が付くほどポジティヴです。

膨大なお金の掛かるヨット旅を、ごく普通の家庭で育った白石さんが成し遂げられた所以は、運の良さはもとより、おそらくその運をガッチリ引き寄せた真っ直ぐな人柄あってこそ。周りの人が身を挺してサポートしたくなる気持ちもわかります。

 

3度目の正直

本編は、出港から赤道、赤道からホーン岬ホーン岬から喜望峰喜望峰からシドニーシドニー沖からゴールの松崎港と、大きく5つに分れ、各章に子ども時代の思い出、ご家族や造船所の方々とのエピソード、師匠である多田雄幸さんとの出会いと別れについてなどが挿入されていきます。

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なかでも私が好きなのは第1章。白石さんが単独・無寄港・無補給での世界1周に成功したのは3度目の航海でした。同章では過去2回の失敗も赤裸々に告白。設備トラブルに見舞われて2度目の航海中止を決めた時の様子を、こう回想されています。

僕は坐禅を組んで自問自答した。俺はここに何をしに来たんだろう? 世界一周をするために来たんだ。そのためには今何をするべきなのか? 船を完全に直すことだ。では、どうすれば船を直せるのか? 引き返せるうちに日本に戻ることだ……。

僕は再び、日本へ引き返したのだ。一回目の失敗で涙はすでに涸れ果て、二回目の失敗のときは涙どころか、自分を呪う言葉さえもろくに出なかった。

人生を賭けて実現しようと固く誓った夢があり、いままさにその夢に向かってチャレンジしている最中ですよ。しかも20代半ば若き青年ですからね。周りへの見栄もあったでしょう。

なのに、ともすればイケイケドンドンでそのまま突っ走りかねないところを、逸る気持ちをグッとこらえて引き返すって、物凄く難しい決断だったと思います。

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その後のスポンサーに対するお詫び行脚や、誰とも顔を合わせたくないあまり、知り合いの家に引きこもっていた日々の記述も含めて、私はこの第1章を読むたびに胸が締め付けられ、〈よくぞ立ち上がった!〉と心の中で拍手喝采。失意のどん底だった白石さんを再度奮い立たせたのは、額に書かれたゲーテの名言でした。

大切なことは大志を抱き、それを成し遂げる技能と忍耐を持つことである。その他はいずれも重要ではない。

1度や2度の失敗でへこたれていてはダメですね。白石さんを見ていると、人生の中で本当に叶えたい夢に関しては、自尊心をかなぐり捨てて、とにかくしぶとく、諦めずに挑戦し続ける姿勢が大事だって教えられます。

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ちなみに、白石さんは当時の最年少記録を樹立した単独・無寄港・無補給での航海を終えた後、アドヴェンチャー・レースに参加し、こちらも3度目のチャレンジで見事完走。はたまた、太平洋横断世界新記録したり、日本人として初めて単独世界1周ヨットレース〈Velux 5 Oceans〉のクラスIに参戦したり、世界最高峰かつ世界でもっとも過酷と呼ばれる〈Vendee Globe〉にアジア人初出場したり……。

4年に1度行われるその〈Vendee Globe〉については、次回の2024年大会をめざし、今年から出場資格を得るためのレースが続々と控えている状況です。御年54。どんなに大きな成功を手にしようとも、安住を拒み続ける姿がカッコ良すぎます。

目標を達成したら、次なる目標に向かって突き進む。仮に途中で失敗しても、その時の失敗を前向きに受け止めてしっかりと成功に繋げる。良い意味で諦めが悪く、でも夢を叶えるためなら一旦立ち止まり、引き返す判断も冷静に下せる――私もこういう人になりたいな~ってしみじみ思いました。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

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