FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

片桐はいり『グアテマラの弟』|読書旅vol.30

オミクロン株の流行でまた逆戻りした感もありつつ、昨年から観光客の渡航制限を緩和する国が徐々に増えはじめ、つい1か月までは私の周りでも仕事や遊びで海を渡る人たちがちょこちょこ出ていました。

片や自分はまだ海外に行く予定がありません。行かない理由をもっともらしく並べることはできるものの、突き詰めて考えると、単にテンションが追いついていないだけ。ツレが国内キャンプにせっせと勤しんでいるのを口実に、〈もう少し日本に留まるか〉といった感じです。

そんなこんなで自分自身のリアルな旅ネタが底を突き、旅をテーマにした本を読んでの拙い感想文を発表する場と化している当ブログ。スロウなペースで回を重ね、これが30冊目となりますが、早くも取り上げる地域に偏りが出てきました。せっかく読書という体裁の疑似旅行なのだから、いろいろな場所へ飛べばいいものを、アジアの本ばかり手に取ってしまう私。過去29冊中17冊がアジア関連の書籍です。

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そうした反省も踏まえ、今回は片桐はいりさんの『グアテマラの弟』(2007年/幻冬舎)をピックアップ。ちなみに、このブログでは〈BOOK〉のカテゴリーをさらにエリア別で分け、グアテマラは〈NORTH AMERICA〉に分類しています。

FIFAのW杯予選をやんわり参考に、北アメリカはいわゆるアングロアメリカではなく、北中米カリブをまとめてカテゴライズ。アジアにしても中近東を含み、いまだに登場していないオセアニア地域の扱いは考え中です(※どうでもいい情報に文字を割いてゴメンナサイ。どこかのタイミングで説明しておきたくて)。

【追記】広義的に北アメリカ大陸と周辺の島々を〈NORTH AMERICA〉と括るのが間違っているわけではないのですが、FIFAに合わせるなら〈NORTH, CENTRAL AMERICA & CARIBBEAN〉のほうが良いと思い、誤解を生まないためにもカテゴリー名を改めました(長いけど……)。

 

家族って不思議

著者の片桐はいりさんはTV・舞台・映画などで幅広く活躍されている、言わずと知れた実力派女優。映画『かもめ食堂』の撮影で訪れたフィンランドにまつわる初エッセイ『わたしのマトカ』(2006年)に続き、『グアテマラの弟』は2作目の著書となります。

タイトルから窺える通り、著者の弟さんはグアテマラ在住。2人は決してベッタリ仲良しな姉弟じゃなく、むしろ逆。10代からほぼ口を利かない、本人曰く険悪な時期を経て、徐々に関係が修復していったとか。きっかけは、劇団を辞めて時間に余裕のできた当時30歳のはいりさんが、出し抜けに敢行した古都アンティグアにある弟さん宅の初訪問でした。

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実質15年以上も疎遠になっていて、なおかつ日本から1万2000km離れた場所で暮らす相手を突撃で訪ねてしまうはいりさんもはいりさんなら、それをあっさり受け入れる側も受け入れる側。家族の関係性って不思議です。

13年ぶり2度目のアンティグア滞在をまとめた本書も、肝となるのはご家族のお話。何があってもシエスタ(昼休憩≒昼寝)はガッツリ取る年上の義妹さんを通じて、幼い頃に見た忙しなく働く母親の背中を思い出し、はたまた、コーヒーの好みから思いがけず天国にいる父親と繋がって……。

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振り回されっぱなしで、面倒臭くて、ちょっぴり厄介な存在だけど、自分の人生からは絶対に切り離せない愛おしい人たち――そう言わんばかりに小言混じりで綴られていく片桐家の様子に、クスクス笑ってほろりとさせられました。

文庫本の解説を弟さんが担当されているのもちょっとしたサプライズです。しかもお姉さんに負けず劣らず文章が巧く、本編の出だしで歯ブラシの替え時の話題から弟さんとの思い出に文を繋げる姉のはいりさんに対し、弟の真さんは解説の頭で漢字ドリルからお姉さんの話に飛躍。秀逸な伏線回収も含めて、血は争えないなと妙に感心してしまいます。

 

ここがヘンだよグアテマラ人!?

グアテマラの弟』はグアテマラに興味のない読者でも十二分に楽しめます。おそらく多くの方が読み終わった後に各々の家族を思い出し、愛おしい気持ちになるでしょう。

でもやっぱり私が自分のブログで紹介するからには、にフォーカスしたいところ。本書の魅力の1つは、グアテマラの考え方や何気ない習慣を、純日本的な視点で分析していく点だと思っています。

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弟さん夫婦の自宅に着いて早々の夜、はいりさんはウェルカムフラワーが飾られたガラスの天板を割ってしまい、翌朝に改めてお詫び。しかし義妹さんは何を謝られているのやら、ポカンとしていたそうです。その姿を見て……。

そうだ。ここはラテンの国なのだ。自分の失敗も、他人の失敗も、都合よく忘れてくれる国なのだ。昨日のことを今日まで引きずるべきではない。グアテマラ第一日目の朝、私は日本の流儀を、少しだけ、この国のモードにチェンジすることにした。

とはいえ、なかなか簡単にはモード・チェンジできず、時間にルーズなお国柄を考慮して集合時間の10分後に到着してみるも、どうしたって一番乗りになってしまったり、アミーゴという言葉が持つ間口の広さに頭を抱えたり(見知らぬ人でも挨拶を交わせばアミーゴ?)。

また、特別なお金持ちでなく中流家庭でもお手伝いさんを雇う習慣に戸惑いながら、わずかなお金を貯めるより、そのお金と仕事をみんなで分け合ったほうが全員ハッピーになれるのだろうとの結論に達したはいりさん。日本とグアテマラの違いを自分なりに消化し、理解していこうとする姿が素敵です。

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なかでも印象的なのが、中南米ではお馴染みのチーノ攻撃について。東洋人蔑視の意味合いで投げ掛けられるシチュエーションもある一方で、言っている側は悪意ゼロなパターンも多く、グアテマラ人でも目の細い人一重瞼の人はチーノと呼ばれがちなんですって。

チーノだけじゃなく、例えば太っている人にはゴルド、鼻の低い人にはチャトなどなど、〈外見差別はダメ〉と言われて育った我々日本人からすると、なぜ彼らは他人の見た目を見たまま口に出すのか、理解に苦しみます。

ラテン諸国の多民族社会では、混血に混血をくりかえしているので、それぞれ外見が違うのは当然である。よって、身体的特徴で相手を呼ぶのに躊躇もないし、特に悪意も含まない。

これは弟さん家族が営むスペイン語学校にあった本の中から、はいりさんが見つけた一節。なるほど。美意識は人それぞれ大きく異なって然るべき。特に多民族国家であればなおさらです。諸々の背景を知ろうとする心構えがあれば、チーノ攻撃の受け止め方もだいぶ変わってくるな~、なんて目から鱗が落ちました。

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もう1つ本書を特徴付けているのは、人物描写の素晴らしさ。街角にいる浮浪者や山登りツアーに居合わせた白人カップル、市場のおばちゃんをはじめ、ちょっとした登場人物も名脇役に仕立ててしまうテクニックが見事です。その洞察力の鋭さと人間に対する旺盛な好奇心は、一流の役者さんならではと言えるでしょうか。他人への興味が薄い人には絶対にこんな原稿書けません。

とにもかくにも、物凄い文才があるにもかかわらず、著書が3冊しかないのが本当に残念だし、もったいない。肩肘張らずにサラサラ読めて、でも読了後はしばらく私の中に居座ってジワジワ心を温めてくれるような『グアテマラの弟』。これを読んだ誰もが、アンティグアのことも、片桐はいりさんのことも、きっと好きにならずにはいられなくなるはずです。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

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