FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

小林希『恋する旅女、世界をゆく――29歳、会社を辞めて旅に出た』|読書旅vol.18

前回の『行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅』(2003年/幻冬舎)が男のロマンに溢れまくりの1冊だったため(*詳しくはこちらから)、次は女性の旅エッセイを読もうと決めていました。

そんな折に近所の古本屋で見つけたのが、こちらの『恋する旅女、世界をゆく――29歳、会社を辞めて旅に出た』(2014年/幻冬舎)。タイトルからして狙いにバッチリはまっています。

レキジョ、リケジョ、スージョ、テツジョ(またはテツコ)、山ガール、森ガール、カープ女子、刀剣女子――いろいろな分野で●●女/●●ガール/●●女子ブームってありましたよね。結局、定着したのは●●女子のみ? ほんの数年前の流行り言葉なのに、●●女/●●ガールに関しては早くも懐かしさすら覚えます。

 

正直、最初は苦手でした

著者の小林希さんは大学卒業後にサイバーエージェントへ入社し、そのグループ会社であるアメーバブックスの編集者として活躍。いわゆるバリキャリ系です。

しかも容姿端麗で、恋愛には依存せず、自立心が強くてひとり旅も朝飯前。女性が憧れる女性を絵に描いたような印象を受けました。むしろあまりにも完璧で〈下手すりゃ妬みの対象になるのでは?〉と思った矢先に、案の定モテすぎてイジメに遭った過去を本書の序盤で告白。不謹慎かもしれませんが、純粋に羨ましいです。

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仕事に没頭する日々のなか、小林さんは〈旅したい!〉という衝動を抑えられなくなり、2011年12月末にアメーバブックスを退社。恋人とも別れて、翌月には日本を飛び出すことに。

彼女の旅程は、1~3月にアジアを周遊、4~6月をフランスで過ごし、7月にはチュニジア、その後はノープラン。『恋する旅女、世界をゆく』には出だしの3か月を費やしたアジア旅行のエピソードが綴られています。

正直に言うと、小林さんの文体にしばらく馴染めず、何度か脱落しかけました。ノリツッコミが随所で登場する感じとか、音引き感嘆符を多用する感じとか(「プリーーーーーズ、スローーーーーーーーーーーーリィィィィィィ!!!!」など)。

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とりわけ私にとって最大の壁となったのが、ゴールデントライアングルのくだり。「大麻の原料となるケシ栽培をしている」や「オピニウム博物館へ行ってみた。オピニウムというのは、アヘンという意味。つまり、大麻栽培をここ一帯で行っていたときの様子が窺える資料館」といった箇所です。

1ページ強に渡って、これ系の説明が連発されるんですよ。言わずもがな、大麻の原料は大麻、アヘンの原料はケシです。

わざわざブログでこのミスについて触れたのは、パーフェクトな彼女に対して持たざる私がどうにかマウントを取りたかったから……ってわけではありません。小林さんにではなく、校正を怠った幻冬舎ゲンナリ

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〈編集者は何をやっているんだ!〉〈著者に恥をかかせるなよ!〉と、一介の本好きとして出版社苦言を呈したかったのです。もっとも、ここまでダイナミックな誤りは、重版電子書籍に合わせて修正されていると思いますけどね。

……なんて偉そうに書きつつ、〈たった1つの事実誤認によって文全体の説得力まで損なわれかねないんだな〉と、改めて執筆する怖さを実感。こんな弱小ブログであっても、ちょっとした手紙であっても、〈誰かに見てもらう文章を書く時は細心の注意を払おう〉と心に刻みました。

 

各地の名所解説にウキウキ

大麻/アヘン問題はともかく、最後まで音引きや感嘆符の多用には馴染めなかったものの、ノリツッコミに関しては途中で合点。自分と向き合う時間が長いひとり旅は、おのずと自問自答を繰り返すのではないか――ひとり旅ができない私は、しばらく読み進めるまでこのことに気付けませんでした。

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で、ノリツッコミが本書にひとり旅の臨場感をもたらしているとわかってからは、もうこっちのペースです。何せ文中に登場するのはインドネシア、マレーシア、シンガポールミャンマー、タイ、ラオスカンボジア……と大好きな場所だらけ。耳馴染みのある地名にウキウキしながら、後半は一気に読んでしまいました。

私が感じた『恋する旅女、世界をゆく』の最たる魅力は、遺跡寺院の説明が詳細に書かれている点。例えば世界3大仏教遺跡アンコールワット、ボロブドゥール、バガン。過去に訪れた人にとっては、自分の旅を重ね合わせてあれこれ回想できるに違いありません。

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もちろん、いつか行ってみたいと思っている人にも、本書は格好の予習テキストに十分なり得ます。ラオス南部のシーパンドンをはじめ、短期の旅行(では立ち寄らない系の場所もたっぷり紹介され、実際に私も〈コロナが明けたらここへ行こう!〉と、旅行用のバケットリストにいくつかメモしておきました。

ついでに、雑誌『ムー』を愛読し、ムー民を自称する著者の趣味趣向が、遺跡の解説部分からやんわり滲み出ているあたりもユニークです。

 

それぞれに異なる旅のスタイル

そんなこんなで、アジア各地の名所をアグレッシヴに訪ね歩く小林さん。1つの都市の滞在日数がたいてい2~3日程度と、旅のスケジュールはかなりタイトです。

バスの遅延など諸事情によってお目当ての遺跡を見られなくなっても延泊はせず、〈これも運命〉とばかりにさっさと頭を切り替えて次の目的地をめざす様子からは、勤め人時代にもテキパキ仕事をこなされていた姿が想像できます。

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〈旅と人生は似ている〉とはよく言ったもので、同じ土地を巡るにしても旅のスタイルは十人十色。その人の人となりが表れます。私の場合、各地の滞在日数をほぼほぼ事前に決めていたとしても、旅程がユルユルというか、〈とりあえずこの土地には飽きたわ〉ってくらい居座るタイプ。旅先であろうが睡眠はたっぷり取るし、絶対に無理はしません。どこに行っても必ずダラダラする日がかなり多くあり、暇を持て余して毎度プチ後悔するほどです。

こうやって他人様と自分の旅との共通点相違点を見つけ、あれこれ思考するのも旅エッセイを読む1つの醍醐味。特に今回は妙齢の同性バックパッカーとして大いに共感できるポイントもチラホラありました。

1つだけ心に決めたのは、学生の頃とは違い、安宿ばっかりに泊まるとか、お金を切り詰めて本場の美味しいものは食べないとか、そんな旅はもうしない、ということだ。しないとは言っても、せざるを得ない状況に陥ることなど何度もあるだろうけれど、まあ、あまり我慢をしないで楽しみたい。

宣言通り彼女は合間合間でラグジュアリーなホテルに泊まり、しっかりと長旅の疲れをリカヴァー。貧乏バックパッカー苦行まがいな旅行記を頻繁に読んでいると、なおさら小林さんの旅に対する心構えが素敵に映ります。

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チェンマイのナイトマーケットで物欲が止まらなくなるシーンも然り。ショッピング中に胸が高鳴るこの感覚、男性陣にはなかなかわかりますまい。

出発前に母親から受けた「旅に出て、それからどうするの?」という質問に、「素敵な女性になるのよ」と答えた彼女。これをさらっと言えてしまう時点で、すでに十分〈素敵な女性〉だと思いませんか? 〈自分探し〉なる厨二病感の否めない曖昧な旅の主題より、ずっと目的意識がはっきりしていて現実的な気がします。

まあ、仮想敵を作って厨二病云々とか非難している私が一番まずい。素敵な女性をめざすべきは、他でもない私かもしれません。

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……と、取り留めのない読書感想文になってしまってゴメンナサイ。なお、小林さんはこれまでに『CLASSY.』や『Oggi』でも旅系の連載を持たれ、『恋する旅女、世界をゆく』以降の経歴から察するに、数々の執筆活動を通じて女子旅を推奨されています。

本書もまた現代を生きる多くの女性が共感できそうな内容ですので、日常からふと逃避したくなった時に読んでみてはいかがでしょうか。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

www.gentosha.co.jp

 

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