FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

岡崎大五『添乗員騒動記』|読書旅vol.14

今回挑むのは1997年に旅行人より刊行され、2002年に角川より文庫化された岡崎大五さんの初作『添乗員騒動記』。会社に所属しないプロの添乗員(=プロテン)として世界中を飛び回っていた著者の、完全実体験によるドタバタ珍道中です。

 

プロテンって何?

そもそもプロテンという存在を認識していなかった私。パッケージ・ツアーに帯同するガイドさんは、てっきり旅行会社の社員さんか、現地の提携会社に在籍している人だと思っていました。

でもよくよく考えると、成田や羽田からガイドさんが付き添っている光景を見ますし、こと中小規模の旅行代理店がツアーのたびに自社の社員を同行させる、もしくは現地から日本の空港までスタッフを召喚するのは非現実的。実際にGoogleで検索してみたところ、かなりの数の添乗員派遣会社が引っ掛かり、いま驚いています。

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著者の岡崎大五さんは大学を中退した20代前半から主にアジア各地を転々とし、32歳で海外旅行専門のプロテンへ。その後はプロテンを卒業されて数々のエッセイ小説を世に放たれているわけですが、『添乗員騒動記』出版当時はまだバリバリの現役添乗員さんでした。

プロテンってある程度自分の得意なエリアにフォーカスしてお仕事されている方が多いのでしょうか。しかし、岡崎さんの活動範囲はワールドワイド。仕事とはいえ世界中を飛び回れるなんて羨ましいです。

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……と思ったのも束の間、すぐに自分の甘い考えを改めました。次から次へと強敵(一部の厄介なツアー客やままならない状況)が現れ、「これがラスボスだろう」と予想するも、その先にはさらなる難敵が! 本当に容赦ないです。

「○○に寄ってほしい」と予定にないリクエストをネジ込んでくるお客さんは可愛いほうで、痴呆の気のあるお爺ちゃんが迷子になったり、海外渡航経験の豊富なオジサンがイキッて周りのお客さんをバカ呼ばわりしたり、参加者の3分の2近くが高山病に襲われてツアーを続けられなくなったり。

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体調不良に見舞われた方はともかく、集団行動が求められるパッケージ・ツアー。見ず知らずの人が1~2週間も行動を共にするのですから、ツアー内容はもとより、参加者の顔ぶれによって大きく左右されるものなのだと知りました。不平不満ばかりを言う人がいたら、その嫌な空気が周りに伝染しますしね。

そして、ツアー・コンダクターとも呼ぶ通り、添乗員さんはその集団を上手に束ね、どんなシチュエーションでも参加者全員が楽しめるように指揮しなくてはいけません。これは大変な業務です。

 

そんな場所へも行っちゃうの?

さて、皆さんは団体旅行が好きですか? 私は大人になってからほとんど参加していません。たぶん利用したのは全日フリープランでホテル指定でき、個人手配するより価格が安くなった時くらい。

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もちろん、パッケージ・ツアーのメリットもたくさんあると思います。効率良く観光地を巡れて、個人で動くよりも圧倒的に安心安全。それに北朝鮮トルクメニスタンチベット自治区をはじめ、ツアーじゃないと立ち入れない国や地域だって少なくありません。

それでもパッケージ・ツアーを選ばない理由は、自分のペースで動けないのと、決められた場所しか行けないから。前者に関しては集団行動が得意でない単なる社会不適合者なのであれとして、後者に関しては「岡崎さんみたいな方が添乗するツアーなら参加したいな~」と。

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例えば、丸山ゴンザレスさんをして「世界一危険な街」と言わしめた南アフリカヨハネスブルク。白人居住地区のホテルを拠点に、アフリカ随一の超高層ビルカールトン・センターや金鉱体験ができるテーマパーク=ゴールドリーフシティーを回った後、岡崎さん御一行に時間的な余裕ができた際のエピソードです。

「どこかへ連れてってくれるんでしょ?」というお客さんの声を受け、「安牌を切って植物園に案内しようか。でもそれじゃ、この街の魅力は伝わらないし……」と悩んだ岡崎さんは、現地でガイド&ドライバーを雇ってソウェトに赴き、豪華な邸宅が並ぶ富裕層ゾーンからスラム街まで、ぶらり見学するプランを閃きます。

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参加者の身の安全を何よりも優先すべき団体ツアーにおいて、ソウェトのスラム街へ足を運ぶのはかなりリスキー。いまでこそ観光地化しているものの、25年近く前の話ですからね。普通はせいぜいネルソン・マンデラ国立博物館に行くのが関の山? そうしたなか、タウンシップ(旧黒人専用地区)の名残をガッツリ引き継いだガチめの一画もツアー客に味わわせたいと奮起する姿に、プロテンのプロ魂が垣間見えました。

いいな~、ソウェト。名コンピ『The Indestructible Beat Of Soweto』を筆頭に、アフリカ音楽好きにはとても魅力的な地区。私もこの街から生まれたシャンガーン・エレクトロをやたら聴いていた時期があり、ソウェトには興味津々です。

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他にも、時にはフランクフルトの色町を男性客だけで徘徊し、時には夜這い習慣のあるブータンで若者の集まるバーに出向いて女の子を物色。ダーク・ツーリズム的な謳い文句ではなく、風俗ツアーでもなく、あくまでも一般の観光ツアーでこんな体験ができるとは。岡崎さんに当たったお客さんはめちゃくちゃ運が良いです。

とにもかくにも、世界でご活躍される添乗員の方に心から「ご苦労様です」な気持ち。旅は人の心を豊かにするものだと思っていて、それをサポートする添乗員さんのお仕事は物凄く素敵だなと感じました。世の中が落ち着いて観光業が復活するまで、何とか踏ん張ってください……って、ここに書いても仕方ないか。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

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