FAR-OUT ~日本脱出できるかな?~

旅のこととか、旅に関する本のこととか。

野中ともそ『世界のはてのレゲエ・バー』|読書旅vol.1

前回の記事で宣言した通り、しばらくこのブログを「旅気分に浸れる本を紹介する場所」にシフトチェンジします。記念すべき第1回目は『世界のはてのレゲエ・バー』(2005年/双葉社)。

「NYにやってきたおちこぼれ高校生の、彷徨いと成長の日々。緩やかなリズムにのって広がる青春ストーリー!」との帯文に違わず、親の転勤でニューヨークに引っ越したティーンエイジャーの成長譚です。

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そう、旅の話ではないんです。いきなりの変化球。最初はわかりやすく旅エッセイにしようかとも思いつつ、もともとこの本が凄く好きだったので、初回はこれにしようと決めました。

 

音楽が脳内再生される文章

著者の野中ともそさんは翻訳家やイラストレーターの肩書も持つ作家さん。最近の話題だと2020年に『宇宙でいちばんあかるい屋根』(原作は2003年作)が、清原果耶さんの主演で映画化されていたりもします。

そんな野中さんはニューヨーク在住。移住前は東京を拠点に音楽雑誌の編集者フリーランスライターさんとして活動していたそうです。

音楽に対する造詣の深さこそ、おそらく私が野中作品にハマった大きな理由。レゲエを起点にカリブ音楽の虜だった若かりし頃の私は、トリニダード・トバゴを舞台にした処女作『パンの鳴る海、緋の舞う空』(1999年)やこの『世界のはてのレゲエ・バー』を読んで、「何て素敵な文章を書かれる方なんだ!」とめちゃくちゃ興奮したんですよ。

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句読点の配置やさりげないフレーズの反復から生まれる心地良いリズムに、要所で飛び出す固有名詞が合わさり、読み手の頭の中にも音楽が鳴り出すというか……。

かつてロック・キッズが村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』(1976年)に熱狂したように、私にとってはそれが野中ともそさんの『世界のはてのレゲエ・バー』だったわけです。

 

レゲエの名曲と共に展開するストーリー

この本は各章にヒット・チューンの名を冠しているのがちょっとしたポイント。ボブ・マーリーの“I Shot The Sheriff”とか、マイティ・ダイヤモンズの“I Need A Roof”とか、ブジュ・バントンの“Close One Yesterday”とか……。

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曲とストーリーがダイレクトに繋がる章もあれば、何となくかする程度の章もあり。例えば主人公が元カノの死と対峙する5章の“Let Your Teardrops Fall”。

〈涙を流せよ その涙を こぼせばいい/涙のしずくを落とすんだ〉――つけっ放しのiPodから流れるシュガー・マイノットの湿っぽい歌声に、「うるせえ」と悪態をつくシーンが秀逸です。

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15年前はさほど引っ掛からなかったものの、その間に大切な友人を失った私はいま改めて「失意のどん底で自分の無力さに憤っている時はどんな歌も慰めにならないよな……」と、この少年に凄く共感しています。

オリジナルのホレス・アンディじゃなく、あえてのシュガー・マイノットっていうのも深読みしたくなる感じ。

 

ちょっとヤバげなニューヨーク

“Let Your Teardrops Fall”の章はさておき、『世界のはてのレゲエ・バー』を読んだ当初はレゲエ的な側面でこの本の世界観に感銘を受けたのですが、あくまでも同ブログでは「旅気分に浸れる本を紹介したい」といったコンセプトを掲げています。

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しかも冒頭で触れたように主人公は父親の転勤でニューヨークへ渡っているわけで、「旅をするのと暮らすのとでは状況がまったく違うだろ!」みたいなツッコミもそろそろ入って然るべき。

しかし出掛けたいフラストレーションがマックスな状態でこれを読むと、レゲエ云々以上にイマジネイティヴな情景描写の数々が私の心をギュッと掴みに掛かってくるんですよね。

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抹茶色の池の上でボートを漕ぎ、暖色に色付いた木の葉を見上げてジョン・レノンの死に思いを馳せる晩秋のセントラル・パーク

一晩にしてすべてが雪で覆われ、目の前にはビルや車の形をした純白のオブジェが林立する、まるで巨大アートさながらな真冬のソーホー

新緑の匂い漂う風を纏って、オーブンの中の焼き菓子のように、見る間に熱気で膨らんでいく春のロウワーイーストサイド

ほら、四季折々で表情を変えていくニューヨークの街を一緒に散歩しているような気分になりませんか?

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家でも学校でも、物語の鍵となる行きつけの小さなバーでも、どこにいても何となく所在なさげで、自分の居場所を見つけられずにもがく少年の佇まいは、街の住人というよりも明らかにストレンジャー。良い意味で全然溶け込んでいなくて、だから余計にこちらの旅気分を刺激するのかもしれません。

ちなみに、人種差別格差社会の根深い問題にも直面しながらこの男の子が興味を示すのは、ギャングスタの闊歩するサウスブロンクスや、行き場を失ったホームレスが身を寄せる地下鉄の廃墟駅などなど。

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スパイク・リー映画ヒップホップ名盤に触れ、かの地への憧れを募らせてきた私の専属ガイドとして、本著の主人公は文句なしの働きぶりを見せてくれます。

私と同様にセレブなニューヨークじゃなく、ちょっとヤバげなニューヨークを巡りたくなったら、『世界のはてのレゲエ・バー』を開いてみてはいかがでしょうか。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著と直接関係はありません。

 

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